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「One for All, All for One」

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At the Milliner's, Edgar Degas, The Metropolitan Museum of Art

助けを得ても解決できない問題もある。老化もその一つだ。自然選択とは単なる個体の生と死の問題ではなく、全生態系の盛衰の問題でもある。老化は安定した生態系を共有するために個体が支払わされる料金の一部として進化してきた。だから、老化した体は自ら癒えようとはせず自分自身を破壊しようとしているし、度を越えた個体あるいは遺伝子の利己主義は否定される、とされる。

理論生物学者ジョシュ・ミッテルドルフ、生物学者ドリオン・セーガン著「若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間」(集英社インターナショナル)によれば、人間を脆弱にし、生殖能力を失わせ、死に至らしめる遺伝子が老化を支配しているのだとしたら、そうした遺伝子は進化の競争をいかに勝ち抜いてきたのか?その答えは、自然選択とはたんなる個体の生と死の問題ではなく、地域集団や全生態系の盛衰の問題でもあるというものだ。老化は安定した生態系を共有するために個体が支払う料金の一部として進化してきた。わたしたちは生態系を守るために、文字通り命を支払う。老化によって上昇した死亡率は、異常増殖などが引き起こす大規模な人口崩壊を回避する。ここから導き出される予測の一つは、加齢が引き起こす病気に対して、医療科学はこれまでと違うアプローチをしなければならないということだ。なぜなら体は[自ら]癒えようとはしておらす、反対に自分自身を破壊しようとしているからだ。もう一つ導き出されるのは、進化論の利己的遺伝子説ですべての説明がつくわけではないということだ。母なる自然は自分の子供たちに、度を越えた利己主義はやめるように忠告する、という。

老化の遺伝子が真核生物に20億年も生き残ってきたのは、安定した生態系を維持するためだったというのは、まだ仮説だ。しかし、異常増殖が集団の消滅につながったケースは実在するし、異常増殖しない種が生き残ってきたとしても不思議はない。少なくとも目に見える範囲の自然現象と矛盾しているようには見えない。そこで、もしこの仮説が正しいとするならば、これまでの常識は転換を迫られる。直接、目には見えなくても、また個体の意思に反していても、体は老化に伴いせっせと自分自身を破壊しようとしているし、全生態系に損傷を与えるような度を越した利己主義はやめよという忠告が出されている。「One for All, All for One」 は、ラグビーの専売特許ではなくて、生物の在り方そのものを規定する根本的なルールだったのかもしれない。世界からの種の多様性の減少、自然破壊、人類だけの人口爆発は、一部の進歩主義者だけが懸念する問題ではなく、生物の在り方そのものに反している状況だということになる。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

初めから矛盾した

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Abhisarika Nayika, a Heroine Longing for Her Lover, ca. 1790–1800, The Metropolitan Museum of Art

恋する相手がいる頃が人生の花の盛りだ。しかし、その花もいずれしぼんで枯れるときがやってくる。20億年前に生息した最初の真核生物のその子孫からは、共通して老化遺伝子が見つかっている。老化遺伝子がこれほど長く保存されてきたということは、老化というものが重要な生物学的機能の一つに違いないという証拠だ、とされる。

理論生物学者ジョシュ・ミッテルドルフ、生物学者ドリオン・セーガン著「若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間」(集英社インターナショナル)によれば、age-1は線虫から見つかった老化遺伝子の最初のケースだ。今では欠損すると寿命が延びる遺伝子が何百も見つかっている。いいかえるなら、こうした遺伝子は欠損せずに存在したままだと、寿命を短くする働きがあるわけだ。老化遺伝子は線虫だけでなく、他の動物からも見つかっている。線虫、酵母、ショウジョウバエ、マウスは、系統樹のまったく違う枝の出身だ。にもかかわらず、彼らは共通の祖先をもっている。20億年も前に生息した最初の真核生物(核とその他の細胞内小器官をもつ複雑な細胞)だ。老化は個体にとって災厄であるにもかかわらず、進化は老化遺伝子を宝石のように大切に保存してきた。これは老化が重要な生物学的機能に違いないという決定的証拠だ、という。

絶えず自然淘汰の波にさらされる進化の世界で、意味のない遺伝子が20億年間もずっと保存されてくるということはあり得ない。だから、老化は真核生物にとって欠くべからざる機能の一つのはずだということになる。しかし、個体としての私たちは、老化及びその先の死が避けられるものであるならば避けたいと思っている。私たちは初めから矛盾した存在だ。つまり、ヒトの場合、遺伝子のなせる業で個体はできれば若いままで生き続けたいと思うが、種としては、個体は必ず老化し死するものとして遺伝子レベルでプログラムされてもいる。人はそのことを始めて認識した生物だ。その矛盾を心のレベルで解決する手段として、ヒトは、鈍感力だけでなく、宗教というものをも生み出したのかもしれない。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

喜劇

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Trees Encoiled in Vines of Ivy, Studio of Tawaraya Sōtatsu, The Metropolitan Museum of Art

源氏物語の時代にも現代にも社会のリーダーは存在する。有能なリーダーとは、コミュニティに宿る知識を活用し、メンバーのなかで最も専門能力の高いものに責任を委譲できる人だ。ただし、実際にはそのようなリーダーが存在せず、コミュニティがときとして極端で誤った見解を持つこともある。そのような見解を拒絶するのはあなた自身の責任だ、とされる。

ブラウン大学教授スティーブン・スローマン、コロラド大学教授フィリップ・ファーンバック著「知ってるつもり 無知の科学」(早川書房)によれば、知能は特定の個人ではなく、コミュニティの中に存在する。このためコミュニティの知恵を引き出す意思決定の手続きは、比較的無知な個人の力に頼るものより優れた結果をもたらす可能性が高い。有能なリーダーとは、コミュニティを盛り立て、そのうちに宿る知識を活用し、メンバーのなかで最も専門能力が高い者に責任を委譲できる人だ。ただ、コミュニティはときとして極端で誤った見解を持つこともある。個人は自らを欺くことがあり、集団はメンバー同士が欺き合うのを助長することもある。コミュニティが誤ったアドバイスをしたときには、それを拒絶するのはあなたの責任だ。ナチスの強制収容所の警備員が、自分たちは命令に従っていただけだと言っても許されることはない。社会がここまで進歩できたのは、ヒトはたいてい協力的であろうとするためだ。私たちは、自分が知っていることだけを伝え、確信が持てないときにはそれを正直に言う人だけで周囲を固めようとする。そしてそれはたいていうまくいく。日頃つきあう相手は、たいてい信頼できる。だからコミュニティで生きていくことが可能なのだ、という。

普通の人は、正直な人で周囲を固めようとするだろう。しかし、米国のトランプ大統領とその周辺は明らかに違っている。極端で誤った見解を持ち、米国民を欺いている。大統領は、自分自身が絶え間なく、意図的にあるいは無意識に、嘘をつくし、国家としての約束も平気で破る。周囲にいる閣僚等は、トランプ大統領の嘘を知りながら、知らないふりをするか、あるいは、大統領の嘘と整合する嘘を自分もつくタイプの人々が多い。正直であることよりも、閣僚であり続けようとすること、あるいは議員であり続けようとすることの方を優先させる人ばかりだ。関係者は誰もが嘘をつくことに四苦八苦だ。外部から冷静に眺めれば、そのような喜劇にしか見えない。ドナルド・トランプは、事実を認識しながら嘘をつき続ける詐欺師か、ほとんどの事実を誤認している愚か者か、その場限りの思い付きだけで行動する刹那主義者か、そのいずれであるのかは分からない。しかし、彼はある意味で一貫しているところがある。たまたま米国のリーダーに選んでしまったが、ドナルド・トランプは不動産屋の時代からずっと自分とその家族のことしか考えていないし、大統領になってからは米国=頼りにならない国家という評価を世界に印象付けているということを、米国民は思い知らされることになりそうだ。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

「緩やかな介入主義」

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The Gardener, Georges Seurat, The Metropolitan Museum of Art

少しでも定期的に手を入れれば、庭の植物も元気になる。社会の意思決定のプロセスを少しだけ変化させることで、今よりももっと良い結果を実現させられることがある。それは「緩やかな介入主義」とも呼ばれる。人々の選択権を制限することはないが、どの選択肢を奨励するかを誰かが決めるというものだ、とされる。

ブラウン大学教授スティーブン・スローマン、コロラド大学教授フィリップ・ファーンバック著「知ってるつもり 無知の科学」(早川書房)によれば、シカゴ大学の経済学者リチャード・セイラーと、ハーバード大学の法学者キャス・サンスティーンは「リバタリアン・パターナリズム(緩やかな介入主義)」という思想を提唱している。人は常に最高の判断を下すわけではない。自らの目標を達成するのに最も有効な選択肢を必ずしも選ぶわけではない。しかし、意思決定のプロセスを変化させることで、将来はもっと良い意思決定ができるようになるかもしれない。このような変化を促す行為を「ナッジ(軽く突くこと)」と呼ぶ。たとえば、臓器提供におけるナッジとは、法律を改正し、デフォルト(標準設定)で全員をドナーにすることだ。臓器ドナーになりたい人に運転免許証の裏面に署名させる代わりに、ドナーになりたくない人に免許証の裏面に署名をしてオプトアウト(制度から離脱する意思表明)させる仕組みに変更することだ。このシンプルな変更は、臓器提供者が劇的に増えるという非常に大きな結果につながる。ナッジがリバタリアニズム(自由至上主義)と言えるのは、人々の選択する権利を制限しようとはしないためだ。しかし、どの選択肢を奨励するかを誰かが決めるという意味では、パターナリズム(家父長主義)と言える、という。

同様の考え方で行けば、選挙の投票率を上げるためならば、棄権した選挙権者に相応のペナルティを自動的に課すべきだということになるだろう。政治家の質を高めるためならば、彼らの報酬を現在の3分の1程度にまで減額すべきだということになるだろう。高齢者の自動車事故を減らすためならば、70歳になったら免許を一律に失効させ、どうしても運転したい人にはもう一度ゼロから運転試験を受けさせるということだろう。実際には、事前に、個々の目的そのものが妥当なのかどうかの検証が必要だし、またその方法が様々な選択肢の中で最適なのかどうかの検証も必要だ。しかも、政治がそれらを実現するとして、政治家にはそれらの政策を実現させようという意欲と調整能力がなければならない。

テーマ : 文明・文化&思想
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活用する術

Talking It Over
Talking It Over, Enoch Wood Perry, The Metropolitan Museum of Art

話し合うことは成功への第一歩になる。そこで重要なのは、他の人々の知識や能力を活用する方法を身に着けることだ。私たちが使える知識や能力の大部分は、自分自身ではなく、他の人々のなかにあるからだ、とされる。

ブラウン大学教授スティーブン・スローマン、コロラド大学教授フィリップ・ファーンバック著「知ってるつもり 無知の科学」(早川書房)によれば、私たちが個人として知っていることは少ない。それはしかたのないことだ。世の中には知るべきことがあまりに多すぎる。多少の事実や理論を学んだり、能力を身に着けることはもちろんできる。だがそれに加えて、他の人々の知識や能力を活用する方法もに身につけなければならない。実は、それが成功のカギなのだ。なぜなら私たちが使える知識や能力の大部分は、他の人々のなかにあるからだ。医用生体科学の分野で発表された数百万本の論文のデータベース「MEDLINE(メドライン)」では、論文一本当たりの筆者の数が、1950年には平均1.5人であったのが、2014年には約5.5人と、ほぼ四倍に増えた。これは今日発表される文献は、平均六人近い科学者の努力と専門知識の産物であることを意味している。他の多くの分野と同じように、科学のコミュニティもチームワークで動いている、という。

優秀な学生ほど、自分自身の能力を磨くことに一生懸命努力する。しかし、それだけでは社会で成功することにはなかなか至らない。他の人々の知識や能力を活用する方法を意識的に身に着けた方がよい。誰がどのような優れた知識や能力を持っているのかを見分けられなければならず、それらの人々と良好な人間関係を構築できなければならない。互いに情報を与え合い、頼まれたことをきっちりと実行し合うことを通じて信頼関係が出来上がっていく。一芸に秀でた人間ではなく、特別に何も優れたところがあるとは思えないような人がときに大企業のトップになることがあるのは、他の人々を活用する術において優れているからかもしれない。

テーマ : 文明・文化&思想
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