奇跡的な何か

Christ Healing the Blind
Christ Healing the Blind, El Greco, The Metropolitan Museum of Art

キリスト教の聖人には奇跡がつきものだ。ましてやキリストの場合はもちろんだ。しかし、自然界には奇跡は存在しない。すべてが現在すでに、あるいは未来において、科学的に説明され得る。原核細胞は真核細胞と比べて、平均的に、体積では15000分の1、遺伝子の数では4分の1、1遺伝子あたりのエネルギーでは1200分の1と小さい。仮に原核細胞をスケールアップして真核細胞並みの体積と遺伝子の数にしようとすると、1遺伝子あたりのエネルギーは、増加するのではなく、真核細胞の125000分の1に低下してしまう。一部の原核細胞が進化するには宗教的な奇跡ではなく、奇跡的な何かが必要だった。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン Origins of Life プログラムリーダー、ニック・レーン著「生命、エネルギー、進化」(株式会社みすず書房)によれば、細菌約50種と単細胞の真核生物20種をサンプルしたところ、真核生物は細菌よりも細胞の体積が平均で15000倍大きかった。真核生物の呼吸の速度が細菌の3分の1であることを考えれば、平均的な真核生物が1秒あたり消費する酸素の量は、平均的な細菌のおよそ5000倍ということになる。1個の真核細胞が5000倍のエネルギーをもっているとも言える。平均すると、遺伝子の数は細菌では5000個ほど、真核生物では約20000個で、平均的な真核生物は、平均的な原核生物に比べ、1遺伝子当たりでは1200倍のエネルギーをもっている。ここで5000個の遺伝子からなる細菌のゲノムを20000個の遺伝子からなる真核生物サイズのゲノムにスケールアップして遺伝子の数を補正すれば、細菌の1遺伝子あたりのエネルギーは平均的な真核生物の5000分の1ほどに減少する。細菌を平均的な真核生物のサイズにスケールアップすると、細胞の表面積を625倍にすることになって、ATP合成は625倍になるが、体積は15000倍にすることになって、それだけのタンパク質を作ることになり、エネルギーコストは15000倍になる。したがってゲノム中の任意の遺伝子について1遺伝子あたりの利用可能なエネルギーは25分の1ていどに落ちる。この値にゲノムのサイズで補正したあとの1遺伝子あたりのエネルギーの差である5000分の1をかけると、ゲノムのサイズも細胞体積も等しくした場合に、その巨大細菌の1遺伝子あたりのエネルギーは真核生物の125000分の1になる。つまり、細菌をスケールアップして真核生物のサイズにしようとすると、真核生物のようにゲノムのサイズと利用可能なエネルギーが増大するのではなく、実際には1遺伝子あたりのエネルギーが減少してしまう、という。

平均的に、原核細胞の体積が真核細胞のそれの15000分の1にとどまっていることには理由がある。細胞の表面積に比例してATP合成は増えるが、体積に比例して、自己を維持するためのエネルギーコストがもっと急激に増えてしまうからだ。原核細胞の体積が大きくなるということは、1遺伝子あたりの利用可能なエネルギーが減少することを意味する。だから、原核細胞は真核細胞よりもはるかに小さい体積にとどまっている。一部の原核細胞が進化するには、奇跡的な何かが起こらなければならなかった。それは、原核生物同士の文字通りの共生だ。ところで、日本の政治において、民進党が低迷していることにも相応の理由がある。安倍首相が主導する次の総選挙で民進党が議席を伸ばすには、現状の延長線上ではなく奇跡的な何かが起こらなければならないだろう。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

偶然の重なり

The Annunciation
The Annunciation, Botticelli, The Metropolitan Museum of Art

大天使ガブリエルがマリアに懐妊を告知したとされる受胎告知は、キリスト教徒の間で普遍的に信じられている出来事だ。化学浸透共役はすべての生命活動に見られる普遍的特性だ。単なる化学反応を超越している。それは、熱として無駄になっていたはずの少量のエネルギーを細胞内に保存できるようにする。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン Origins of Life プログラムリーダー、ニック・レーン著「生命、エネルギー、進化」(株式会社みすず書房)によれば、どんなタイプの呼吸も、どんなタイプの光合成も、どんなタイプの独立栄養(単純な無機の前駆体のみから細胞が成長する方式)も、厳密にいえば化学浸透だ。化学浸透共役のすばらしさは、化学反応を超越する点にある。これにより細胞は「小銭」を貯めることができる。1個のATPを生み出すのに10個のプロトンが必要で、ある化学反応ではプロトンを4個汲み出せるだけのエネルギーしか放出できないとすると、この反応を3回繰り返せば12個のプロトンを汲み出せ、そのうち10個を使ってATPが1個生み出せる。このおかげで細胞は、本来なら熱として無駄になっていたはずの少量のエネルギーを保存できる。その結果、プロトン勾配はただの化学反応に勝るものとなる。プロトン勾配は、栄養の摂取や老廃物の排出を促すのに広く利用されたり、細菌の鞭毛を回すのに使われたりする。化学浸透共役はまさに宇宙における生命の普遍的特性であるはずだということが示唆されている、という。

エネルギーは散逸する。生命とは、自分自身でそのようなエネルギーを蓄え、それを消費するプロセスを継続することができる存在だ。それを可能にする方法が化学浸透共役だ。最初の生物である細菌・古細菌をはじめすべての生物が化学浸透共役を利用している。宇宙におけるすべての生物がそれを利用しているだろうとも推測されている。そのことが示唆するのは、生物が存在する惑星には、弱酸性海水、アルカリ熱水孔、硫化鉄という半導体等がすべて同じ時、同じ場所にあって、天然のプロトン勾配が事前に存在していなければならないということだ。マリアの受胎と異なって、生命の誕生は、現実の世界の奇跡的な偶然の重なりだけがもたらし得るものだ。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

進化しない理由

Tahitian Women Bathing
Tahitian Women Bathing, Paul Gauguin, The Metropolitan Museum of Art

ポール・ゴーギャンがタヒチに惹かれたのは、都市の殺伐として目まぐるしく変化する生活とは異なる、昔ながらの素朴で変わらない生活がそこに残っていたからだろう。原核生物である細菌と古細菌はきわめて保守的だ。誕生後、40億年間ほとんど変化していない。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン Origins of Life プログラムリーダー、ニック・レーン著「生命、エネルギー、進化」(株式会社みすず書房)によれば、細胞の体積で見ると、原核生物は一般に真核生物のおよそ15000分の1だ。ゲノムのサイズでは、最大の細菌ゲノムの場合、DNAに約12メガ塩基対が含まれている。それに対し、ヒトは約3000メガ塩基対で、真核生物のなかには10万メガ塩基対以上にのぼるものもいる。何よりも興味深いのは、細菌も古細菌も40億年の進化においてほとんど変化していないということだ、という。

生物が変化するにも変化しないにも理由がある。過去40億年間、二酸化炭素濃度、酸素濃度、平均温度、その他を含めて、地球環境は大きく変化してきた。40億年間は高度に進化するにも絶滅するにも十分過ぎる時間だ。しかし、細菌と古細菌にはこの間ほとんど変化せずに存続してきたものがいる。彼らには環境変化に耐えらえる十分な柔軟性はあるが、同時に、進化を妨げる何らかの大きな制約も存在すると推測される。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

二重の意味

Red School House
Red School House, George Henry Durrie, The Metropolitan Museum of Art

小さな学校でも、のびやかに育った子供たちは、やがてそれぞれの未来に向かって羽ばたいていく。アルカリ熱水孔の原始細胞のうち、後に酢酸生成菌(細菌)となる集団は、Ech(エネルギー変換ヒドロゲナーゼ=鉄硫黄タンパク質)の方向を逆転させEchをポンプとしてそこからプロトンを細胞の外へ汲み出すようになった。後にメタン生成菌(古細菌)となる集団は、対向輸送体をまるごとポンプとなるように改変した。彼らはともに、膜脂質にグリセロールの頭部を取り込んで膜がリークしにくいように改めた。こうして、自由生活性の細菌と古細菌がそれぞれ独立に現われた、とされる。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン Origins of Life プログラムリーダー、ニック・レーン著「生命、エネルギー、進化」(株式会社みすず書房)によれば、電子分岐とは、すぐに返済する約束でなされたエネルギーの短期貸し付けだ。H₂とCO₂の反応は全体として発エルゴン的(エネルギーを放出する)だが、最初の数段階は吸エルゴン的(エネルギーのインプットが必要)だ。最初の数段階で費やすのに必要な分より多くのエネルギーが最後の数段階で放出されるため、いくらかのエネルギーが膜をはさんでのプロトン勾配として保存される。共通祖先の集団では、Ech(エネルギー変換ヒドロゲナーゼ=鉄硫黄タンパク質)を通ってなかへ入る通常のプロトンの流れがフェレドキシン(電子伝達タンパク質)の還元に使われ、それがさらにCO₂の還元を促したのではないかと著者は考える。その後、一方の集団は最終的に酢酸生成菌となったが、彼らはEchの方向を逆転させ、今度はフェレドキシンを酸化して放出されるエネルギーを使い、プロトンをポンプとしてのEchから細胞の外へ汲み出すようになった。しかし、酢酸生成菌は、フェレドキシンに頼らずに炭素を還元する手段を新たに見つけ出さなければならなかった。電子分岐という巧みな手口でCO₂を間接的に還元できるようになった。メタン生成菌となった第二の集団は、別の手段を見つけた。彼らは、対向輸送体をまるごとポンプ(メチル基移転酵素)となるように改変したようなのだ。メタン生成菌は、酢酸生成菌と同じタンパク質のいくつかを用いながら、かなり違うつなぎ方をして、異なる形態の電子分岐を作り出した。それぞれのグループが能動的なポンプを手に入れると、ついに膜を改良するのが有利になった。細胞が対向輸送体とイオンポンプを手に入れたとたん、膜脂質にグリセロールの頭部を取り込むことにメリットが生まれた。古細菌はグリセロールの一方の立体異性体を用い、細菌はその鏡像体を用いた。熱水孔内のプロトン勾配によって生きていた共通祖先から、最初の自由生活性の細胞、細菌と古細菌が独立に現われた、という。

子どもが親から独立するためには、衣食住を自ら賄うことができなければならない。自由生活性の細胞が現れるためには、天然のプロトン勾配への依存を断ち切らなければならない。そのために必要だったのが、対向輸送体とイオンポンプと透過性の低い膜だ。細菌と古細菌はそれぞれ独立的にそのような条件を充足し、アルカリ熱水孔の細孔にとどまる必要性をなくし、最初の自由生活性の細胞となったようだ。自然はこうして二種類の原核細胞を誕生させた。それは、環境の変化等があったとしても生命の存続可能性を高めるという意味では生物の安全対策として機能したのだろう。しかし、同時に、後には、両者の共生によって、より進化した真核細胞を生むという意味では、生命発展の可能性を開くものでもあった。二種類の原核細胞の誕生には、意図はないにしても、二重の意味があった。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

転換点

Piazza San Marco
Piazza San Marco, Francesco Guardi, The Metropolitan Museum of Art

ベネチアのサンマルコ広場を訪れる観光客は、地元に貨幣を落とし代わりにガラス工芸品等のお土産を持って帰る。「Na⁺/H⁺対向輸送体」は、1個のH⁺が対向輸送体を通じて細胞に入るごとに、1個のNa⁺を強制的に外へ出す機能を持つ。原子細胞がアルカリ熱水孔を出る準備を整えたのは、細胞に「Na⁺/H⁺対向輸送体」が生み出された時だと推測されている。これによって、天然のプロトン勾配への依存が減り、リークしにくい膜の方がよくなった。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン Origins of Life プログラムリーダー、ニック・レーン著「生命、エネルギー、進化」(株式会社みすず書房)によれば、40億年前、海水とアルカリ熱水にさらされていた原始細胞は、リークしやすい膜を持つがゆえに、プロトン勾配を利用することができた。しかし、この細胞は進化できない状態にあるように見える。膜の特性が改良されても何のメリットもない。むしろ、リークしにくい膜では、細胞内からプロトンを取り除く手立てがなくなるので、すぐにプロトン勾配が失われてしまう。その解決策が対向輸送体だ。リークしやすい細胞がアルカリ熱水孔にあってNa⁺/H⁺対向輸送体を生み出したら、それがプロトンを動力とするNa⁺ポンプとして働くのだ。1個のH⁺が対向輸送体を通じて細胞に入るごとに、1個のNa⁺が強制的に外へ出される。一般に、脂質の膜の透過率は、H⁺よりもNa⁺のほうが6桁ほど低い。そのため、押し出されたNa⁺は外に出たままになりやすい。Na⁺は、脂質を直接通って戻るのではなくEchやATP合成酵素のような膜タンパク質経由で細胞にふたたび入るはずだ。この細胞はまだ天然のプロトン勾配を原動力としているのでプロトン透過性の膜が必要だが、いまやNa⁺勾配もあり、著者たちの見積もりでは、これが、以前のプロトンだけに頼っていたころより60パーセントほど多くのエネルギーを細胞に与えてくれる。すると、前は何のメリットもなかったのに、プロトンを汲み出すことにわずかなメリットがあるようになる。対向輸送体があって初めて、汲み出しが割にあう仕事になる。天然の勾配への依存が減る。こうしてようやく、透過率の低い膜をもつほうがよくなる。細胞は熱水孔を出る準備を整えた、という。

Na⁺/H⁺対向輸送体の生成は原始細胞がアルカリ熱水孔を離脱する前提条件であったようだ。天然のプロトン勾配への依存が減り、膜の透過率が低い方がよくなるのは、細胞がNa⁺/H⁺対向輸送体を生み出した時だ。天然のプロトン勾配に依存しないということは、原始細胞誕生の地であるアルカリ熱水孔の細孔を離れてもよいということだ。なぜNa⁺/H⁺対向輸送体が生成されたのかは偶然の賜物というしかないのだろうが、いったんそれが出来上がると原始細胞は生息可能地域を拡大することになっただろう。一種の転換点だ。ところで、金正恩は、核とミサイルを持った軍事力を、米国によって自己の政権を転覆されないための必要条件と信じているのだろう。しかし、米国の目から見れば、中国と同盟関係にある北朝鮮の政権転覆はこれまでは真剣には考えてはいなかったのに、核と米国本土まで届くミサイル技術の進展並びに度重なる挑発的言動を前にして、考えを改めざるを得なくなったということではなかろうか?こちらも転換点であるかもしれない。

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