任せて安心

胃は溶解器、小腸は吸収器、大腸は発酵器だとも言える。それぞれ、酸性度が異なり、生息する細菌の数が異なり、消化管としての役割が異なっている。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、消化管の各部位は、まったく違うことをしている。胃は溶解器、小腸は吸収器、大腸は変換器と呼んだ方がいいかもしれない。胃の酸性度はPHスケールで1から3のあいだだ。入ってくるものは何でも溶かすための極端な環境だ。ここでは、たった1種類の細菌(ヘリコバクター・ピロリ)だけが繁殖できる。1ミリリットル当たりの細菌数は10だ。小腸の酸性度はPH4から5のあいだだ。1ミリリットル当たりの細菌数は10の3乗から10の7乗だ。小腸では胆汁や膵液も消化に参加し、食べ物は単純糖質(二、三個の糖がつながったもの)、複合糖質(数百から数千の糖分子がつながっている)、脂肪、タンパク質へとばらばらにされる。小さな分子の単糖類は比較的速く吸収される。大きい分子は分解に時間がかかり、小腸の下部で吸収される。しかし、果物や野菜に含まれる複合糖質のほとんどは小腸で消化できずに大腸にたどり着く。大腸はPHがほぼ7の中性だ。酸のタンクのような胃や、渦巻く早瀬のような小腸と比べると細菌の天国だ。大腸では1ミリリットル当たりの細菌数は10の11乗だ。そこでは、人間にはない多糖類分解酵素を持った細菌が複合糖質を発酵させている、という。

食物繊維は人間の力によっては消化されずに大腸まで到達し、そこで細菌の力によって発酵させられる。大腸はPHがほぼ中性で、細菌にとっては棲みやすい環境だ。大腸は単に糞を形成し水分を吸収するだけの1.5メートル余りの消化管ではない。大腸の細菌には、薬効成分である短鎖脂肪酸を生成するものがいる。一部の必須ビタミンを生成するものもいる。人体の炎症レベルの調節に貢献するものがいる。この大腸を含め消化管は、胃、小腸、大腸が、それぞれ機能と役割を異にしながら、有機的につながって任せて安心の体制で消化全般を担当しているとも言えるだろう。長い試行錯誤の歴史の中で、有害なもの・無益なものは消滅し、有益なものだけが残されるという進化の過程を経て成立した、巧妙でほぼ完璧な体制だ。ところで、日本の防衛は、政府、防衛省(含む自衛隊)、外務省が主として担当するが、幸いにも、これまで彼らの機能・役割・装備・連携は実戦で試されたことが一度もないから、それだけに、米朝ともに暴発リスクを抱えた現在の緊迫した国際情勢を前にすると不安を感じさせるところがある。

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腸内細菌相売ります?

ダイエットにおいて重要なのは、食べる量だけではない。何を食べるかということと、腸内細菌相をどのようなものにするかということも重要だ。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、セントルイスにあるワシントン大学の研究者は、遺伝的差異を除外するため、片方は肥満しもう片方は痩せている[ヒトの]一卵性双生児を四組集めた。それぞれの双子から採取した便サンプルは、無菌マウスに移植された。双子の痩せている方の腸内細菌相を与えられたマウスは痩せたままで、肥満している方の細菌相を与えられたマウスは肥満になった。これは重大な発見だった。腸内細菌相の移植は可能であり、そればかりか大きな効果が期待できる。腸内微生物は肥満において、正当に評価されていないが大きな役割を果たしている。重要なのは食べる量だけではない。何を食べるかと、私たちの中に何が棲んでいるかも重要だ、という。

ダイエットでまず思い浮かべるのは、運動をする、食べる総量を減らす、糖分を減らす等であって、腸内細菌相にまでは通常考えが及ばない。しかし、マウスの実験では、痩せた人の腸内細菌相を無菌マウスに移植すればマウスは痩せたままで、肥満している人の腸内細菌相を移植されれば肥満になるということが確認された。これからは、何の努力もせずに、腸内細菌相の移植だけでダイエットすることができるということだろうか?痩せて健康であることが確認されている人は、その腸内細菌相をブランドとして売ることができるようにもなるのだろうか?そのような可能性はゼロではない、という気がする。

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9週間で効果の出たダイエット法

食事療法だけで、9週間で、体重、血圧、血糖値、体内の炎症を低下させることができることが示されている。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、中国の微生物学者、趙立平は自ら考案した新しい食事法を採り入れ、2年間で20キロ近くの減量に成功した。彼はこの食事法をWTPと呼んだ。WはWhole grains(全粒穀物)、TはTraditional foods(米、多くの野菜、少しの肉からなる中国の伝統的な食事)、PはPrebiotics(食物繊維)のことだ。肥満の人の血中にはリポ多糖という分子が高濃度で存在する。リポ多糖は別名「内毒素」と呼ばれる。血液中の内毒素濃度が高いと、身体じゅうで軽度の炎症が起きる。細菌の細胞壁にあるリポ多糖分子のすべてが同じわけではなく、特にエンテロバクター類のリポ多糖は、この種の細菌の病原性を、他の内毒素を作る腸内微生物層よりも1000倍高くしている。肥満者では脂肪組織の最大50パーセントがマクロファージでできている。非肥満者では、マクロファージは脂肪組織の5パーセントを占めるに過ぎない。肥満の人は、炎症を誘発するT細胞の数も、坑炎症性のT細胞に比べて脂肪組織中に多く持っている。腸からの内毒素が脂肪組織に押し寄せると、局所のマクロファージとT細胞がそれを抗原だと解釈する。抗原がたくさんあり、免疫細胞がたくさんあると、大量の炎症誘発性サイトカインが解き放たれる。その一つがインターロイキン6だ。93人の肥満者が趙のWTPダイエットに従った。(全粒穀物にはハトムギ、ソバ、オートムギ、伝統食品にはニガウリ、プレバイオティクスにはペクチンとオリゴ糖が選ばれた。)9週間後、全員の体重が減り、血圧とトリグリセリド値(脂肪)が低下し、血糖値が平常値に下がった。炎症を示すいくつかのバイオマーカーも著しく低下した。強力な内毒素を作る二つの科の腸内細菌(エンテロバクテリア科、デスルフォビブリオ科)の数が減った。食事を変えることで内毒素生産菌の支配を、ひいてはその肥満への寄与を終わらせることができると、趙は結論した、という。

食事内容をWTPに変えると、肥満が解消され脂肪組織中の免疫細胞が減少するだけではなく、同時に、腸内細菌相が変わり血中のリポ多糖が減少し、免疫細胞にとっては抗原が減少し、二重の意味で炎症誘発性サイトカインが減少することになる。体内の炎症が低下するだけではなく、体重が減少、血圧が低下、血糖値も低下したという。手術をすることもなく、薬を飲むこともなく、運動をすることもなく、ただ食事内容を変えるだけで、僅か9週間で効果が出るのだから、病院や製薬メーカーにとっては、世に知られては欲しくないダイエット法であるかもしれない。しかし、実際にWTPがあまり世の中に知られていないのは、(1)副作用があるからか、(2)実行に強い意志が必要だからか、あるいは(3)誰も宣伝をしないからだろうか。食事内容を変えるだけだから特に副作用があるとは思えない。とすれば、(2)か(3)ということだろうか。

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耐性

高杉晋作、樋口一葉、滝廉太郎、青木繁、石川啄木の共通点は何か?皆二十代という若さで結核のために亡くなった、ということだ。まだストレプトマイシンが発見される以前のことで、その恩恵を受けることができなかった。微生物はすべて悪者だという考えを改めさせる二つ目の事例はこのストレプトマイシンだ。ペニシリンの材料は偶然に発見された有益なカビだが、ストレプトマイシンの材料は、土壌中の有益な細菌を意図的に探す中で発見された放線菌の一種だ。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、放線菌は、しなやかな構造と円錐形の形状を持ち、時に活発な青いコロニーを作る。土壌の「土臭い」匂いは、たいていこのグループの細菌のしわざであることが分かっている。それは、土壌の有機物を一次分解する集団の一つだ。セルマン・ワクスマンらは当初、ヒトの病原体との戦いに使える化学物質を土壌から探そうとして、放線菌を含め、広い範囲の菌類と細菌を調べていた。予備実験に基づき、すぐに放線菌以外をすべて放棄した。1943年、実験動物には害を与えず病原体を都合よく殺す化学物質を生産する放線菌(ストレプトミケス・グリセウス)を発見した。1944年、ワクスマンらはストレプトマイシン発見の論文を発表した。その直後、製薬会社のメルクが臨床試験を開始し、結核患者にストレプトマイシンを試した。1946年までに試験は終了した。ストレプトマイシンは結核を治療することができた。その後の10年、ワクスマンらはさらに10種類の抗生物質を発見した。1940年代の終わりには、研究者は一つの問題にぶつかっていた。ストレプトマイシンが一部の結核患者に効かなくなっていた。それどころか、ワクスマンらが発見したほとんどすべての抗生物質が、それ以外の抗生物質同様、すぐに標的となる細菌に耐性を誘発した、という。

ペニシリンの材料はアオカビの一種だ。アオカビは、パン、餅、皮革製品などに生える、日常もっとも普通に見られるカビだ。一方、ストレプトマイシンの材料は、土壌中の放線菌の一種だ。土壌の有機物を分解している。こちらも特別の存在ではない。しかし、微生物の世界でも生き残るための熾烈な闘いが繰り広げられている。ヒトはそれらから独立した位置に立って、特定の種の微生物の武器が別の種への攻撃に効果があることを見出し、自分の病気を治すことに使うようになった。やはり「敵の敵は味方」戦略だ。しかし、微生物同士に長い闘いの歴史があることを思えば、細菌が抗生物質に対する耐性を身に着けたとしても、そのような細菌に対する新たな抗生物質を見つけることができると、楽観的に考えていてもいいのだろうか?

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「敵の敵は味方」戦略

微生物はすべて悪者だという考えを改めさせる有名な事例の一つが、ペニシリンだ。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、1928年、スコットランド人の医師アレクサンダー・フレミングが休暇から戻ると、細菌培養皿はカビに覆われていた。カビだらけのごみを片づけようとしたフレミングは、いくつかの皿で、カビのコロニーの周囲に細菌がいない部分ができていることに気づいた。何らかの方法で、このカビは細菌の繁殖を阻害した。フレミングはこの招かれざる客(ペニキリウム・ノタトゥム)を培養して抗菌成分を分離し、これをペニシリンと名付けた。フレミングは目の感染症の患者をペニシリンで治療することに成功したが、臨床試験を行なえるほどこの目新しいカビを大量に培養することができなかった。その後オックスフォード大学の研究者がカビの培養法を開発し、続いて行われたマウスを使った実験では、ペニシリンは信じがたいほど効果があることが分かった。1941年、少人数の患者による臨床試験が行われ、新しい薬は完璧に作用し、死が確実と思われた二人の命を救った。ペニシリンの本格的な大量生産が始まり、世界大戦の前線へ供給された。感染症による兵士の死を防ぎ、もう一つの重大な軍隊病、淋病を抑制するものは、敵方にはない強力な武器だった、という。

生き残るための熾烈な戦いは、ヒトの世界、動物の世界だけではなく、微生物の世界においても行われている。アオカビが細菌の繫殖を阻害するという現象をたまたま目撃するという幸運に恵まれた医師は、1945年にほかの二人とともにノーベル生理医学賞を受賞した。ペニシリンは、淋菌以外にも、ブドウ球菌、スピロヘータ、肺炎双球菌などにも広く有効だ。ペニシリンは、ヒトから見て、「敵の敵は味方」戦略の成功事例でもある。ヒトの敵である病原性細菌の、その敵であるアオカビの抗菌作用をヒトが利用させてもらったことになる。この戦略の普遍的有効性は、米国大統領選挙の最中に、ロシアのプーチン政権と米国共和党のトランプ陣営とが共通の敵民主党大統領候補ヒラリー・クリントンを破るという点で相互協力した疑いが濃厚だ、という事例にも表れている。

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