小さくても

The Manneporte
The Manneporte, Claude Monet, The Metropolitan Museum of Art

形や色はもちろん、人影の小ささと対比すれば、遠くにあるこの岩のアーチの巨大さ、ごつごつとした固い感触までもが感じられてくる。昆虫の目もほぼ同じように見ることだろう。昆虫には、少なくとも外受容意識があると考えられている。

マウント・サイナイ医科大学教授トッド・E・ファインバーグ、ワシントン大学准教授ジョン・M・マラット著「意識の進化的起源」(勁草書房)によれば、感覚意識には多様な遠距離感覚が必要だ。昆虫にはそのような感覚がある。高解像度の視覚、嗅覚、味覚、聴覚、平衡覚や重力覚、多種類の触覚的な機械感覚、さらに魚類の側線系に相当するような、風を検出する感覚もある。昆虫のすべての感覚経路は同型的に組織化されている。視覚の網膜部位局在性、聴覚の周波数部位局在性、触覚の体部位局在性、嗅覚の香型性などとして。感覚収束の場は昆虫の前大脳の特定の領域で見つかりつつある。記憶のための局所的な脳領域はキノコ体だ。選択的注意を担う脳領域は前大脳にあると同定されている、という。

小さな昆虫でさえも、哺乳類とほぼ同じ種類の諸感覚器官を利用し、周りの世界を統合的かつ正確に知覚し、記憶を参照し、重要な対象に注意を払っているらしい。これらができず、その都度単なる反射的な反応をするだけでは、捕食者がうようよしているこの世界で長く生き残ることは不可能であったろう。夏休みの昆虫採集を思い出してみれば、そうだろうなと思えてくる。小さいからとバカにしてはいけない。一連の米朝関係の動きをみると、北朝鮮は米国と比べればはるかに小さな存在だが、金正恩は相手と相手国のことをトランプ以上に正確に把握し自分のペースで交渉を進めてているように見える。同様に、世界ランキングがずっと下だからとバカにしてはいけない。ワールドカップでの対コロンビア戦の勝利で夕べから日本中が沸いている。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

気が晴れる?

Sudden Shower at Shōno
Sudden Shower at Shōno, Utagawa Hiroshige, The Metropolitan Museum of Art

街道で突然強い雨が降ってくれば、ついてないなと思ったり、早く雨を避けられる場所に行かなければと焦ったり、様々な感情が沸き起こる。脊椎動物の全動物群が情感意識を示す。そのうち哺乳類と鳥類だけが、報酬への期待と、その後で報酬がなかった時に抑うつや怒りを示す、とされる。

マウント・サイナイ医科大学教授トッド・E・ファインバーグ、ワシントン大学准教授ジョン・M・マラット著「意識の進化的起源」(勁草書房)によれば、単なる反射ではない、情感意識の指標となる行動基準は次の通り。・誘発性(=刺激や事象に対する忌避性や嗜好性)をもった結果に基づく、大局的で非反射的なオペラント反応の学習(情感的状態の記憶や、接近/回避という誘発性に関する特性を反映する)。・行動的トレード・オフ(二つの異なる誘発性が認識され、一方がもう一方と比較検討されること)、価値に基づく費用対効果の意思決定。・欲求不満行動(ネガティブな情感の継続)。・経時的な負の対比(同前):学習した報酬が不意に止まった後の、行動の退行。・鎮痛剤や報酬の自己供給(基本的な接近という範囲を超えた、正の誘発性をもつ刺激の探索や追跡)。・強化薬剤への接近/条件性場所選好(同前)。脊椎動物の全動物群が情感意識の行動的指標のほとんどを示す。だがナメクジウオや蠕虫類は示さない。脊椎動物では、哺乳類と鳥類だけが経時的な負の対比を示す。報酬への期待と、その後で報酬がなかったときに生じる記憶に基づく抑うつや怒りだ。情感を示す神経構造は、ナメクジウオにはほとんどないが、脊椎動物ではほぼ一貫して存在する。そうした構造のほとんどが辺縁系であり、脊椎動物のどの動物群にもよく発達した脳幹辺縁系と前脳基底部があるためだ、という。

好き、嫌い、嬉しい、怖いなどの情感は、脊椎動物がある状況に直面したときに、考える必要もなく瞬時にほぼ適切な行動を可能にさせるメカニズムだ。脊椎動物のすべてが同じような情感に基づく反応システムを保有している。しかし、こうすれば報酬がもらえるはずだと思ってやったのに、報酬をもらえなかったとしてがっかりしたり怒ったりするのは、脊椎動物のなかでも哺乳類と鳥類だけであるらしい。爬虫類、両生類、魚類等にはそのような能力はないということだ。報酬への期待は、たとえ原初的なものであっても、未来を予測する能力の存在を示すもので、一段レベルが高いと言えるのだろう。たとえサッカーで日本がコロンビアに負けたとしても、期待が外れてがっかりすることができるのは、哺乳類と鳥類だけに認められる能力だったと思い出せば、少しは気が晴れるかもしれない?

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

覚悟

Steamboats in the Port of Rouen
Steamboats in the Port of Rouen, Camille Pissarro, The Metropolitan Museum of Art

はっきりとは見えない状態でどの船が蒸気船でどの船が帆船かを見極めようとすれば、それなりの基準が必要になる。ある動物に痛覚があるのかどうかを判断するのにも基準が必要になる。痛覚の行動的指標とは、動物が痛みを意識レベルで経験しているかどうかを判断するための基準のことだ。たとえば、侵害刺激を避ける「オペラント行動」、鎮痛剤の自己供給等がある。哺乳類と鳥類で痛覚の行動的指標が確認されている。

マウント・サイナイ医科大学教授トッド・E・ファインバーグ、ワシントン大学准教授ジョン・M・マラット著「意識の進化的起源」(勁草書房)によれば、意識を伴う痛みを確かめる指標の一つはオペラント条件付けのパラダイムでの訓練能力だ。オペラント条件付けとは、ある行動とその行動の結果との連合学習だ。例えば、レバーを押して餌をもらうラットの学習、つまり経験からの学習だ。侵害刺激を避けたりまたは逃げたりする学習戦略などのオペラント行動は、パブロフ型条件付けよりも皮質の切除で失われやすい。除脳ラットは、あらゆる典型的な侵害受容反応を見せ、パブロフ型条件付けもできるが、どのようにして侵害刺激を避けるのかを記憶、学習することができない。痛覚の行動的指標は他にもある。動物が痛みを経験していると言えるには、意識を伴わない反応ではないと言える時間、行動反応が持続することだ。さらに、鎮痛剤を自己供給するかどうかということもある。脊髄神経を結紮[(けっさつ=しばって結ぶ)]及び圧迫されたラットは、レバーを押して鎮痛剤のクロニジンを受け取ったが、対照群にした無結紮のラットはそうしなかったという研究がある。また、関節炎で足が不自由になったラットやニワトリでは、痛みを緩和する非ステロイド性抗炎症薬をを自ら飲むのが観察される一方、健康な対照群では観察されなかったという研究もある。哺乳類と鳥類において痛覚の行動的指標が確認されていることになる、という。

痛みを感じ、その痛みを回避するための行動をしているという判断を下すための指標の設定もさることながら、哺乳類や鳥類では、そういう行為をすること自体がすでに確認されていることになる。そうなると、ウシ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ等の屠殺には配慮がなされるのは当然だということになるし、感受性の鋭い人であれば、それらの肉をいただくことにはためらいを感じざるを得なくなってくるだろう。私たちは彼らによって生かされてきたのだから仕方がないとしても、少しも気にすることはないというのであれば、それは事実上、私たちの子孫がいつか彼らのような立場になったとしてもそれもまた仕方がないと覚悟することでもあるだろう。このあたりのことは、どこまで共感を感じることができるかという点で、ドナルド・トランプや金正恩には理解不能のことではあろうが。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

重要性のメカニズム

Reclining Woman
Reclining Woman, Arthur B. Davies, The Metropolitan Museum of Art

リラックスした状態と対極にあるのが痛みの感覚だ。できれば味わいたくはない。一方、外見からは痛そうに見えても、脳が痛みを感じていない場合というものもあるらしい。侵害受容細胞が刺激されて反射的反応が起こったとしても、それによって必ず意識を伴う痛みが引き起こされるわけでもない。この事実は、除脳ラットの実験等で確認されている。

マウント・サイナイ医科大学教授トッド・E・ファインバーグ、ワシントン大学准教授ジョン・M・マラット著「意識の進化的起源」(勁草書房)によれば、侵害受容とは、特殊化したニューロン(侵害受容細胞)の「侵害刺激」に対する反応だ。「侵害刺激」とは組織にダメージを与えかねないような感覚刺激のことだ。切創、擦過傷、熱傷、挫創、電気ショック等が思い当たる。侵害受容によって反射的な反応や、さらに複雑な行動反応が身体から引き起こされるが、必ずしも意識を伴う痛みが引き起こされるわけではない。除脳ラットや除脳犬でも侵害刺激に反応でき、自律神経系の活性化によって心拍数や血圧の上昇、瞳孔拡張が起こる。侵害性の化学物質であるホルマリンを足に注射されると、除脳ラットは通常のラットとまったく同じように、被害を受けたその足を振ったり毛づくろいしたりする。大脳の関与がなくても、つまり実際の痛覚がなくても、侵害刺激によって痛みを感じているような哺乳類行動の多くが引き起こされる、という。

ここでは、どのような侵害刺激が反射反応等だけを引き起こし、どのような侵害刺激が痛覚意識を引き起こすのかは不明だ。しかし、すべての侵害刺激が必ず痛覚意識を引き起こすわけではない、というのは意外だ。だが、その場合でも自律神経系は活性化されるようだ。気が付いたら傷がついていたけれども、どこで傷がついたのか分からない、という場合もたまには確かにある。それは、注意が何か別のものに引き付けられていたからなのかもしれない。あるいは、身体にとってより重要な侵害刺激だけが痛覚意識を引き起こすようになっているのかもしれない。自動的な反応だけで済むものならば、意識はむしろ介在しない方が効率的だ。小笠原諸島沖を米国籍の船が通過しても菅官房長官に報告されることはないが、尖閣諸島の日本領域内に中国籍の船が入り込めば報告される(であろう)ような、重要性に基づく情報処理のメカニズムが働いているものと推定される。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

揺らいでくるもの

Mannen Bridge, Fukagawa
Mannen Bridge, Fukagawa, Utagawa Hiroshige, The Metropolitan Museum of Art

宙づりにされた亀の目には遠くの富士山が映り、胃は空腹を感じさせ、囚われの感覚は怒りと恐怖を感じさせているのではなかろうか。感覚意識には三つある。外受容意識は外在化された心的イメージとして経験される。内受容意識は体内の生理的変化を感じ取る感覚だ。情感意識は好悪の感情をもたらすものだ、とされる。

マウント・サイナイ医科大学教授トッド・E・ファインバーグ、ワシントン大学准教授ジョン・M・マラット著「意識の進化的起源」(勁草書房)によれば、感覚意識には、外受容意識、内受容意識、情感意識の三つがある。外受容意識は、視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚、皮膚の鋭い痛覚のような遠距離受容器からの感覚だ。外在化された心的イメージとして経験される。主観上「局所的」で、視覚や触覚では環境の局所的な位置や、嗅覚や味覚では脳内の化学的地図の一点 を示す。内受容意識は、体内の生理的、機械的変化を感じ取る感覚だ。膨張した内臓の壁の張りや刺激から、空腹、喉の渇き、吐き気、疲労といった感覚まである。こうしたシグナルは身体が自分自身を変化に適応させ、内的環境を理想的な状態に保つための入力となる。情感意識は、大域的であり、「自己」全体に関与する。好悪の感情をもたらし、悲しみ、喜び、羞恥心、絶望、恐怖等のヒトの複雑な情動の原因となる。情感意識には「辺縁系」が関与している。情感による順位付けによってどの行動反応をするかという選択が単純化されるため、情感は神経の能率を向上させて生存を後押しする、という。

新幹線の車内で見知らぬ男に突然襲われて怪我をした女性、それを助けようとして殺害された男性は気の毒だ。犯人にどのような事情があるのかは知らないが、憤りの感情を禁じ得ない。しかし、恐怖や怒り等の感情を経験するのは人間だけではないのかもしれない。複雑さ、精密さ、機能性等の点で相違はあるにしても、すべての脊椎動物には三つの感覚意識があり、節足動物にも恐らくそれがあり、頭足類にもある可能性がある、とされる。そうなると、人間以外には心はなく、彼らをどのようにして食材にしようと、実験で解剖しようと、防虫剤で処分しようと気にかけないという考え方が、揺らいで来ざるを得ない。程度の差はあるにしても、彼らも一種の心を持っていると認める方が誠実だろう。人間以外には心はないとしてきたのは、自分たち中心の考え方をしなければ種としての存続が危うくなっていたであろうという事情と、科学的理解のレベルが低かったということに由来する、と思われる。

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