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自己の画像

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Peonies, Édouard Manet, The Metropolitan Museum of Art

シャクヤクはどんなに美しくとも、自分の姿を見ることができない。サルさえも鏡の中の自分を認識することができない。ところが、大型類人猿は、サルと異なり、鏡に映った姿が自分自身だと容易に学習して理解することができる、とされる。

セント・アンドリューズ大学名誉教授リチャード・W・バーン著「洞察の期限」(新曜社)によれば、サルは、自分以外の何かの鏡像であれば、それを学習して理解することができる。サルが同種の優位な個体を鏡で見たら、振り向く前に劣位の音声と表情をし始める。しかし、確信をもって鏡に映った自分の顔に適切な反応を示したといえるサルはいない。ゴードン・ギャラップはマーク・テストを考案した。この実験では、実験参加個体にこっそりとマークを付ける。一か所ははっきりわかる所に、もう一か所は鏡を見た時にだけわかる場所につける。最初の30分間は鏡をチンパンジーの見えるところには置かない。その間に、はっきり見えるマークを見つけたり、調べたりするだろう。次に、鏡が戻される。チンパンジーが鏡の中の姿を自分だと理解しているなら、鏡に映った姿を見たらすぐに、隠れたマークに手を伸ばして、調べるはずだ。多くのチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンもまさに同じことをする。大型類人猿は我々がするように体を使って、鏡映像の動きが自分の体のものだと容易に学習して理解することができる、という。

サルと類人猿とを分ける能力の一つが、鏡の中の自分を自分自身だと理解する能力だ。サルにはできないが、類人猿にはできる。類人猿は、自分がいまどういう動作をしているかについて、脳内で客観的に認識する能力を保有している。そのうえで、鏡の中の個体が、自分とまったく同じ一連の動きを同時にしているのであれば、その像は自分自身の像であると判断しているに違いない。自分自身を客観視する能力が類人猿以降に生まれたにもかかわらず、その能力を利用していないヒトも存在する。さまざまな局面で対峙する相手を攻撃するか都合よく利用するかしかしないドナルド・トランプには、自分が何をしているのかは見えていないのだろう。あるいは事実とは全く異なる自己の画像が頭の中に浮かんでしまっているのかもしれない。どちらにしても、そういう人物を大統領に選んでしまった米国は大きなリスクを抱えることになっているし、世界にとっても極めて迷惑なことだ。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

メンタライジングの極致

Salome with the Head of John the Baptist
Salome with the Head of John the Baptist, Gustave Moreau, The Metropolitan Museum of Art

母にそそのかされサロメが踊りの褒賞としてユダヤ王ヘロデに求めたのはバプテスマのヨハネの首だった。母親は娘の心を読み、娘にはそのような余裕がなかったということだろうか。チンパンジーにも、他個体の知識、能力、援助の見込みをメンタライジング(他者の心理を行動から想像し理解する)する能力がある。援助を利用すべきかどうかを判断する能力もある、とされる。

セント・アンドリューズ大学名誉教授リチャード・W・バーン著「洞察の期限」(新曜社)によれば、われわれが協力しようとする場合、共同活動に他者がなしうる貢献を理解することが重要だ。さらに、この種の理解は他者の知識、能力、援助の見込みについてのメンタライジング能力に依存している。最近の研究では、チンパンジーがロープを引っ張る課題をするパートナーを必要とするときに、パートナーを募るだけでなく、確実により良い協力者を選ぶことが分かった。チンパンジーは、助っ人が必要ない場合はパートナー(そして食物のライバルになる)候補のためにドアのカギを開けることはしなかった。二者での協力が必要不可欠な場合にだけそうした。チンパンジーが協力者の効果に関して経験がない場合、自分の手伝いをしてもらうために誰を出してもらうかに好みはなかった。だが、良い協力者か悪い協力者かが分かると、実際に役に立つ個体を出してもらうべく居住地区に戻り、それに合わない者たちは閉じ込めたままにした、という。

チンパンジーにはヒトのような言語がない。しかし、群れの中の個体の、血縁関係、仲間関係、順位、過去の経緯を認識しているし、他個体が誤信念を保有しているかどうかも認識しているらしい。さらに、単独で作業すべきか、協力者(=作業の成果を分け合う相手)を求めるべきかの判断もできる。協力して作業をする必要がある場合には、他個体の知識、能力、援助の見込みもメンタライジングできる。さて、国家の外交はメンタライジングの極致ともいえるだろう。サウジアラビア人記者が在イスタンブールのサウジアラビア総領事館で殺害され人権と報道の自由が侵害されたという疑惑では、米国トランプ政権とサウジアラビアのムハンマド皇太子とが事実を捻じ曲げてでも妥協できる説明の着地点を協議しているように見える。しかし、いずれトルコ政府その他から真実は明らかにされることになるだろう。そして、米国は中東の安定にためには、共通の価値観を持ち信頼に値する国家としてのサウジアラビアを必要としている。それらを踏まえると、たとえトランプ政権が人的にムハンマド皇太子とこれまで密接な関係を築いてきたとしても、ムハンマド皇太子を廃嫡させる方向に米国としては圧力をかけざるを得なくなる可能性がある。それにしても、先進国の一つを自負している日本が、この問題で何の役割も果たしていないように見えるのは残念だ。

テーマ : 文明・文化&思想
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神経戦

Penelope Unraveling Her Work at Night
"Penelope Unraveling Her Work at Night", Dora Wheeler, The Metropolitan Museum of Art

オデュッセウスの妻ペネロペは、夫の父の棺衣を織り上げてからと称し、昼間織った織物を夜ほどいて、再婚を迫る多くの男たちから時をかせいだ、とされる。チンパンジーも、他の個体が知っているだろうこと、あるいは知らないだろうことを理解する能力をもっている。さらに、他個体が誤信念を保有している場合にそのことをも理解する能力がある可能性もある。

セント・アンドリューズ大学名誉教授リチャード・W・バーン著「洞察の期限」(新曜社)によれば、心の理論とは、他の誰かが知っているだろうこと、あるいは知らないだろうことを理解する能力のことだ。あるいは、メンタライジング(心を読むこと)だ。ブライアン・ヘアたちは、実験で、チンパンジーはライバルが何を見ているのかを計算できることを明確に示した。さらに、実験の途中でライバルが別の優位な個体と取り替えられると、実験参加個体はその新参者が、以前起きたことを見る機会がなかったこと、それゆえ食物の隠し場所を知らないことを理解していた。アカゲザルについても同様の証拠がある。霊長類の騙しの行動に関する分析では、真猿のサル類や原猿類では見られないけれども、大型類人猿では潜在的に他者の誤信念を表象できることも示唆されている、という。

同じように集団で暮らしていても、ウシやシカには、他の個体が知っているだろうこと、あるいは知らないだろうことを理解する能力はない。しかし、霊長類の場合には類人猿もサル類もそれができる。さらに、サル類にはできないけれども、大型類人猿の場合には、他の個体が間違った信念を抱いていることをも理解できる可能性が示唆されている。群れの中で、互いに、他個体を識別し、個体ごとの血縁関係、仲間関係、順位、過去の経緯等を認識しなければ生きていけない社会を築いている動物の場合には、新皮質が発達し、メンタライジングや誤信念の理解が可能になっているようだ。ヒトの場合は、その頂点にあるわけだが、だからといって幸福がもたらされたわけでもない。サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子の指示により在イスタンブールのサウジアラビア領事館内で殺害されたという疑惑をめぐっては、事実であれば政治的影響が非常に大きいこともあって、トルコ政府、サウジアラビア政府、アメリカ政府の間で、互いに何を知っているのか、どのように知ったのかという神経戦が繰り広げられている。

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惹かれる理由

Olive Trees
Olive Trees, Vincent van Gogh, The Metropolitan Museum of Art

独自の画風を確立した有名なオランダの画家だが、日本の浮世絵や印象派の画家たちの影響を受けている、とされる。高度な洞察力を持たない種であってさえも、群れの中で未熟な個体の、その注意や探索が自動的になすべきことの方へ向けられるようになっている。それは、熟練した個体に従いつつ一緒に過ごすこと、群れの中の他個体が接触した場所や対象といっそう触れ合うこと、他個体の動作を同じようにすること、によって実現される。

セント・アンドリューズ大学名誉教授リチャード・W・バーン著「洞察の期限」(新曜社)によれば、熟練した個体と一緒にいると、知識のない個体はどのようにして恩恵をこうむるのだろうか。第一に、熟練した個体と一緒に出掛ければ、知識のない個体が行き当たりばったりで歩いて出会うであろう場合とは違った範囲のその土地の環境に触れる。特に、食物が見つけられる安全な場所で時間を過ごすだろう。第二に、社会性のある動物の中には、他の個体が接触しにやってくるのを見た場所や対象といっそう触れ合う傾向を示すものがいる。これは刺激強調と呼ばれる。第三に、自分の行動レパートリーにある動作を他個体がしているのに気づくと、次にはその行為をいっそうするようになりやすい。これは反応促進と呼ばれる。これらのように、観察する側の注意や探索が自動的になすべきことの方へ向けられる。そこでは洞察は必要とされない。しかしながらその結果は、群れの個体たちが優れた専門技術をもっていれば、社会的生活をしている知識を持たない個体にとって大きな利益をもたらす、という。

例えば、洞察力を持たないとされるアカシカの子供の場合でも、母親と一緒にいれば危険なところを避け豊かな食糧がある場所へ円滑に行くことができるし、他の個体にとっての重要な場所や対象を覚えることができ、他の個体にとっての重要な動作を覚えることもできる。アカシカの子供が自分で一から考え出す必要もなく、集団で教育を受ける必要もなく、自動的になすべきことを観察して覚えることができるような仕組みが存在している。ヒトの場合でも、若者が流行の場所、ファッション、スポーツ、音楽、芸能人等に惹かれるのは、「刺激強調」や「反応促進」が働いているということかもしれない。アカシカと同じ原理が働いているとするならば、それはあまりにも強力で拒絶することは困難だ。

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シカの幸せ

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Note in Pink and Brown, James McNeill Whistler, The Metropolitan Museum of Art

ヒトの場合、家族のメンバー同士の関係は極めて濃密だ。学校のクラスメートの名前を知らないこともない。関係性の認知という点で、ヒトだけが特殊なのではない。一般に、霊長類等の群れの中では、すべての個体についての識別された社会関係が発達する。群れが大きくなれば、処理すべき情報量も大きくなるので、群れの大きさと新皮質の容量との間に相関関係が見られるようになる、とされる。

セント・アンドリューズ大学名誉教授リチャード・W・バーン著「洞察の期限」(新曜社)によれば、ロビン・ダンバーは、霊長類では、新皮質の容量は(絶対量で測っても、脳の他の部分との比較で測っても)典型的な社会的群れの大きさによって変化することを示した。生息地域、日中の行動時間、食事の種類、食物の入手方法等は、脳容量とは関係がないことが分かった。霊長類の研究に加え、他の哺乳類の群れ(食虫類、翼手目類のコウモリ、食肉目、クジラ目)においても、社会的な群れの平均的な大きさと新皮質の容量の間に明らかな相関関係が見られる。しかし、偶蹄目の有蹄類[(ラクダ、キリン、ウシ、シカ、イノシシ、カバ)]には見られない。彼らは群れていても個体同士が知っているという明確な兆候はない。一方、準永続的な群れでは、識別された社会関係が発達する。すなわち、誰と誰が血縁関係があるのかを知り、過去に誰が助けてくれたかを覚え、毛づくろいした相手を見失わないようにする等々に注意を払う。群れが相互に識別される関係を持つ個体からなる種にのみ、群れの大きさが重要な計算負荷となり、より大きな新皮質の進化という結果をもたらした、という。

集団で生活しているとしても、たとえばシカの場合は個体同士が互いによく知っているという兆候はない。おそらく、相互の親密な協力もなければ、激しい競争もない。一方、霊長類では協力と競争が極めて重要だ。そのため、個体同士が互いを識別し、血縁関係、仲間関係、群れの中での順位、過去の経緯等を認識している。霊長類のような、複雑な社会関係を営まざるを得ない種においては、群れが大きくなればなるほど情報量が大きくなって計算負荷が高まり、より大きな新皮質をもたらしたと考えられるらしい。しかし、日常的な社会関係を構築できる相手はせいぜい100から150個体程度だろうから、新皮質が無限に大きくなることもなかったのだろう。こういう違いがあるとしても、偶蹄目の有諦類が不幸だということには必ずしもならない。彼らにも満たされた瞬間はあるだろう。彼らが知的に劣るということもない。「神」の目から見れば、彼らの知性もヒトの知性も大差ないということになるだろう。彼らはたまたまそういう生活様式を結果として選択してきただけのことだ。

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