ノッド因子、ビザ、教育勅語

植物が根滲出液の中にフラボノイド(植物色素化合物)を放出すると、根粒菌が根圏に入ってきて「ノッド因子」で応える。植物が歓迎すると根粒菌はその植物のために空気中の窒素ガスを有機窒素化合物に固定するようになる。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、もっともよく知られる窒素固定細菌の一つに、リゾビウム属(=根粒菌)がある。この細菌は、植物が根滲出液の中にフラボノイドを放出すると、根圏に入ってくる。「ノッド因子」と呼ばれる特殊な分子で応え、間違いなく根粒菌であることを植物に保証する。植物が歓迎しさえすれば、根毛細胞を操って、それを細菌のまわりに丸めて膨らませる。小屋のようなこぶの中に無事に収まった細菌は、宿主のために窒素を固定する家畜の群れとなる。窒素の必要を満たすために細菌に頼る植物は、マメ科植物だけではない。ハンノキ、ポプラ、ヤナギは根粒菌を勧誘して、川の砂州のような窒素に乏しい土地に群落を作るのを手伝わせる。窒素固定細菌は、コーヒー、トウモロコシ、サトウキビの根圏でも見つかっている。窒素固定細菌が供給する窒素の量は、土壌の条件にもよるが、年間1エーカーあたり90キログラムに達する。これはコムギやトウモロコシに使われる化学肥料(年間45~90キログラム)を十分埋め合わせるものだ、という。

植物にとって窒素は不可欠の元素でありながら、植物は空気中に大量に存在する窒素ガスを直接吸収することができない。有機窒素化合物という形で根から吸収するしかない。根粒菌は窒素ガスを有機窒素化合物に固定してくれる貴重な存在だ。一部の植物が根粒菌と共生関係を結んでいる。マメ科植物、ハンノキ、ポプラ、ヤナギ、コーヒー、トウモロコシ、サトウキビの根圏で根粒菌が見つかっている。植物はどんな細菌でも歓迎するわけではない。この場合なら根粒菌だけを歓迎する。相手が根粒菌であることを確認する手段が、根粒菌が出すノッド因子と呼ばれる特殊な分子だ。ノッド因子は入国の際のビザのようなものだ。事前に取得したビザがあれば例えばロシアにも入国できるように、根粒菌も植物の体内に入ることができる。同様に、籠池理事長の教育勅語礼賛という合図は、安倍総理夫人の懐に入りやすい合図だったのかもしれない。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

病原性の「支持者」

植物の根毛一本一本を取り巻いているのが根圏だ。植物は根圏に滲出液を流し込む。餌を求めて微生物が根圏に集まる。有益微生物は病原体を根圏から締め出す等のベネフィットを植物にもたらす。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、有益な微生物が土壌中の根の近くにいるとき、それは植物にメッセージを送って、全身誘導抵抗性という免疫のような反応を引き起こすことが分かっている。微生物の言葉は、それぞれのゲノムによって暗号化された多様なタンパク質、ホルモン、その他の化合物だ。植物は根を「耳」として使い、土壌生物の声を聞く。根圏はクモの糸ほどの植物の根毛一本一本を、生きている後光のように取りまいている。根圏に集まる微生物の数は、最大で周囲の土壌の100倍になる。植物は滲出液を根圏に流し込み、有益微生物に餌を与える。滲出液には炭水化物、アミノ酸、ビタミン、フィトケミカルが含まれる。フィトケミカルの中には、細菌の遺伝子の発現を刺激したり妨げたりして、有益な細菌を根に引き寄せ、根につく病原体を防ぐものがある。有益微生物は根の表面に集まり、根を覆う生きた保護膜となって、病原体を根圏から締め出す。共生菌と病原菌のゲノムの違いが、根の表面にうまく集落を作れるか作れないかの違いとなる。細菌はトリプトファンを植物成長ホルモン(インドール酢酸)に変えることができる。放線菌は病原性の細菌、菌類、ウィルスを阻害するさまざまな物質を生産する、という。

植物と有益微生物とは共生関係を構築する。植物は根圏に栄養豊かな滲出液を流し込み、有益微生物を引き寄せ、有益微生物に食糧を与える。有益微生物は、根を覆う保護膜となったり、トリプトファンを植物成長ホルモンに変えたり、病原性の微生物を阻害したりしてくれる。微生物を追って原生生物や線虫等も集まり、彼らの死骸は窒素を含む土壌有機物となって、やがて植物に吸収される。古いタイプの政治家とその支持者との関係にも似たところがある。国会議員は選挙区に、収賄等にならないよう配慮しつつ、国家・地方自治体をして公共工事や公共施設をもたらさせ、あるいは、国有資産を支持者に安価に売却させる。支持者は政治家に寄付金、選挙運動の支援、選挙での一票をもたらす。どちらの場合も、共生関係にある当事者同士は、互いに独自の方法でコミュニケーションを交わし、相互に依存する度合いが深ければ深いほど、強固な共生関係を結ぶことになる。ときに、病原性の微生物、病原性の「支持者」が近づいてくるというところも似ていると言えるだろう。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

循環するシステム

枯れた植物は、微生物等によって分解・消化される。微生物が死ぬと土壌中の有機物となる。有機物は、やがて、植物の根に再び吸収される。豊かな土壌には循環する自然のシステムが存在する。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、ミミズには口と胃のあいだに砂嚢があって、中には細かい岩のかけらが入っている。それでどろどろになった落ち葉やその他の有機物をすり潰して、粒子をどんどん小さくする。ミミズの体内では細菌が魔法のように働いて有機物と造岩鉱物を栄養分に分解し、宿主が吸収できるようにする。ミミズが利用しないものは土の中に排出される。ダニやトビムシは、枯葉を葉脈以外すべてかじりとって、レースのような細工物を残す。菌類は菌糸の生長点から、木をぼろぼろにする有機酸を分泌する。この酸を浴びると、すでに細かい破片になっている落ち葉や木の分解がさらに促進されて、細菌が参加できるようになる。細菌は自前の化学物質で、有機物をさらに分解する。一方、ゾウリムシのような原生生物は、細菌を狩ったり菌糸をかじったりする。線虫は、細菌のほか原生生物も捕食している。細菌の細胞は窒素を豊富に含み、それを食べる捕食性の原生生物や線虫の糞にも窒素がたくさん入っている。最近まで、土壌中の有機物はすべて枯れた植物由来だと考えられていた。ところが、死んだ微生物が土壌有機物の最大80パーセントを占めていることが分かった、という。

豊かな土壌とは、もともとは豊かな微生物相の土壌のことでもあったようだ。ところが、微生物は肉眼では見えないから、彼らの死骸の方が土壌有機物の大部分を占めているとは誰も考えなかったのだろう。しかし、枯れた植物は、最終的に菌類や細菌によってほとんどが分解・消化されているのだから、彼らの死骸が大部分を占めていたとしても不思議ではない。枯れた植物は、それぞれ処理についての得意の大きさを持つ、ミミズ、ダニ、菌類、細菌等によってより細かく分解・消化され、また、それらの細菌や菌類は原生生物や線虫等によって捕食される。そして、死んだ微生物等は土壌中の有機物となり、再び植物によって吸収される。そのような永久的循環システムが豊かな土壌では出来上がっていた。都市ごみの問題は、金属、プラスティック、ガラス、紙等の人工物については、もともと自然の循環システムのプロセスには入っていないということでもある。原発の放射性廃棄物も同様だ。よって、それらの適切な処理を怠れば、自分の生活環境を自ら悪化させるということにならざるを得ない。循環しないシステムに将来への継続性はない。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

目には見えなくても

化学肥料は農業のステロイド剤のようなものだ。一時的な効果はあっても、万能ではない。土壌の肥沃度とは、単なる化学成分のことではない。それに加えて、植物と土壌微生物との生物学的相互作用も同じくらい重要だ。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、イギリス人農学者アルバート・ハワードは、化学肥料を、長期的な土壌の肥沃さや植物の健康と引きかえに短期的な能力を高める農業のステロイド剤として見るようになった。化学肥料を継続して施した作物の収量が低下すると、農民はよくハワードに話していた。作物が世代を重ねるうちに徐々に勢いを失い、やがて繁殖力がなくなってしまうと、彼らはこぼした。1937年から38年初めにかけて、セイロン島のプランテーションで茶の苗木を使って行われた実験では、二面の畑からもともとあった腐植と表土を取り去り、下層土をむき出しにした。その後一方の畑には正しい作り方をした堆肥を1エーカーあたり20トン入れ、もう一方には窒素、リン酸、カリウムの標準的な肥料を入れた。9か月後、堆肥を入れた畑の茶の木は高さ25センチで、しっかりした主根が最大30センチの長さに伸びていた。枝もよく張って、健康な葉が茂り、根には菌糸体がからみついていた。化学肥料を与えた畑の木は15センチしかなく、根は浅く、幹は1本で枝分かれせず、葉はまばらで白っぽかった。堆肥を与えた畑は化学肥料を与えた畑より、渇水によく耐えた。肥沃度は単に土壌の化学成分のことを言うのではない、菌類、土壌生物、植物のあいだの生物学的相互作用もかかわっている、という。

水、光、温度を別にしても、植物の健康のためには化学肥料を与えるだけでは十分ではない。植物が、土壌中の必要な栄養素を十分に吸収し、また病原体から自己を守るためには、土壌有益微生物との相互作用が不可欠だ。化学肥料と違って、堆肥には栄養素とともにさまざまな微生物も生息している。それが、セイロン島のプランテーションで行われた実験で植物の成長度合いに大きな違いをもたらした原因だ。たとえ目には見えなくても、健康な植物が土壌有益微生物との相互関係を欠くことができないのと同様に、米国が世界の中で「偉大な国」であり続けるためには、他の国々との間の緊密な外交関係が重要だ。外交関係やその成果も目には見えにくい。トランプ政権は、国防費540億ドル増額、メキシコとの国境の壁建設15億ドル、減税等のために、国務省関連の予算を28パーセント削減しようとしている。問題意識はそれなりに正しくても、原因分析と対応策は見当違いと言わざるを得ないだろう。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

テスト済みの手段

ミトコンドリアと葉緑体は、多細胞生物の起源が共生であることの証拠だ。微生物種同士の共生には、それぞれが単独でいるよりも生存のための確率を高められるものが有り得る。

ワシントン大学教授デイヴィッド・モンゴメリー、生物学者アン・ビクレー著「土と内臓」(築地書館)によれば、多細胞生物の起源が共生であることのもっとも大きな証拠はミトコンドリアだ。すべての真核生物はミトコンドリアを持っているが、原核生物の中には見られない。ミトコンドリアを覆う膜は、他の細胞小器官のものと化学的性質も機能も似ていない。ミトコンドリアは独自のDNAも持っており、DNA複製過程は細胞核内のものとまったく異なる。ミトコンドリア同様、葉緑体は植物の細胞核にあるものとは別に独自のDNAを持つ。微生物の生存戦略として共生が成功した理由の一つは、その効率の良さに関係している。二種類の細菌がいて、それぞれもう片方が生産する老廃物を食べているとする。この細菌は永久に養分をやり取りしながら、群集として生き続けることができる。また、一つ一つの微生物種は、本当に得意とするものが限られている傾向にある。微生物が集団を作って協力しあえば、一種類だけのときに比べて、できることの幅がはるかに広がる、という。

外見や骨格の特徴ではなく、ミトコンドリアDNAの塩基配列の相違から各地のヒトの近親関係や離別の時期を統一的に推定できるように、花や葉の形や色からではなく、葉緑体DNAの塩基配列の相違から各種の植物の近縁関係も統一的に推定できるということなのであろう。ミトコンドリアも葉緑体も多細胞生物の起源が共生であることの証拠だ。共生は、種同士それぞれが単独でいるよりも厳しい環境の中での生存確率を高めることができる手段の一つとして、生物史の中でその有効性を完璧にテスト済みだ。この点で、実質的に保護貿易主義を主張するトランプ政権は、米国自体がこれまで享受してきた多国間の共生の利益を自ら放棄しようとするもので、国家全体としての方向性を見失っているし、少なくとも、あえて保護貿易主義をとる根拠を示せていない、と思われる。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

Author:仮想粒子
仮想粒子日記へようこそ。
徒然なるままに感じたところを文章に致しました。
お楽しみ頂ければ幸いです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
プロフィール

Author:仮想粒子
仮想粒子日記へようこそ。
徒然なるままに感じたところを文章に致しました。
お楽しみ頂ければ幸いです。

カレンダー
02 | 2017/03 | 03
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR