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準備の段階

The Three Trees
The Three Trees, Rembrandt, The Metropolitan Museum of Art

やってくる黒い雲が見え強まる風を感じれば、やがて雨が降り出すことは分かる。食物がそばにあることを認知したり、食事の時間になったと認識したりすると、実際に食物をひとかじりする以前から、摂食に関する予期的、生理的調節が始まる。脳相反応と呼ばれる。

アメリカ産科婦人科学会上級研究員マイケル・L・パワー、ワシントン大学産科婦人科学部客員教授ジェイ・シュルキン著「人はなぜ太りやすいのか」(みすず書房)によれば、脳相反応は、食物と摂食に関する予期的、生理的調節を意味する言葉だ。それは、生物が食物を摂取、消化、吸収、代謝する際に働く、中枢神経が生み出す合図のようなものだ。予期は生物が食物を栄養素に変える効率を向上させ、一定時間内に消化できる食物の量が増える。食物をひとかじりする時点までに、あるいはそれ以前から、食事の量や時間に影響を与える生理反応はすでに始まっている。脳相反応は、物理的な運動(腸管運動)、分泌(消化酵素、ペプチドホルモン)、代謝(熱産生)に分けることができる。予期的な期待反応は周辺環境への応答として起こることもあるし、また体内時計など、内的なリズムに則った対応として起こることもある。食物による感覚刺激は脳相の消化反応を刺激し、唾液や胃酸、膵液の分泌を増やす。プラスチックのタッパーに入った食物を目にすることでさえ、ヒトに胃酸の分泌を引き起こす。そこに匂いや味覚の記憶が加わると、分泌はさらに増加する、という。

一般的に、中枢神経を活発に働かせている状況であれば、それに伴って何らかの変化が体内に生じることがあっても不思議ではない。脳相反応は、そのうちの摂食等に関わる反応のことだ。梅干を見ただけで、食べる前から、口の中がすっぱい感じになってしまうのが、脳相反応の一例だ。食に関して、ヒトの身体はサプライズを嫌い、食物が口の中に入る前から事前に準備を整えるようになっているらしい。そうすることによって、一定時間内に消化できる食物の量が増えるようになっている。準備期間と本番とがあるというのは、ヒトの集団におけるあらゆるイベントもそうだろう。例えば東京オリンピックの場合は、2020年に向けて既に様々な準備が進行中だ。入試にしても、何の準備もしないで入試に臨む受験生はいない。新しい事象は、無意識的であれ意識的であれ、突然発生するのではなく、それが成就するためには、必ず事前に何らかの準備の段階が必要になると言えるのかもしれない。今、私たちは何を準備していることになるのだろうか?

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

国民栄誉賞

The Spanish Girl in Reverie
The Spanish Girl in Reverie, Washington Allston, The Metropolitan Museum of Art

荒涼とした風景が背後にあるから、少女の聖性が際立つ。満腹感と空腹感も対極にある。満腹感をもたらすペプチドの一つにコレシストキニンがある。コレシストキニンは小腸と脳で産生される。それは「食べる」という行為を速やかに中止させるが、活性は短時間で、一日の合計食物摂取量にはほとんど影響を与えない。一方、食欲を増進するペプチドとして唯一知られているのはグレリンだ。グレリンは胃と小腸で産生される。

アメリカ産科婦人科学会上級研究員マイケル・L・パワー、ワシントン大学産科婦人科学部客員教授ジェイ・シュルキン著「人はなぜ太りやすいのか」(みすず書房)によれば、満腹感と飽満は異なる。満腹感は短期間の「食べる」という行為を調節する。動物は満腹になると食べるのを止める。飽満は食べる頻度を調節する。満腹は食事を終えることに関係し、飽満は食事の回数や食事と食事の間隔の調節に関係する。コレシストキニンは最初に同定された満腹ペプチドであり、小腸と脳で産生される。その受容体は二つ存在する。一型受容体は主として腸に発現し、二型受容体は脳に発現する。コレシストキニンを末梢投与すると、投与量に応じて食事量が減少する。コレシストキニンの食欲減退効果は強力で速やかだ。しかし活性は短時間で、投与後30分しか持続しない。コレシストキニンは満腹感を生むが、それは飽満を意味しない。「食べる」という行為を中止させるが、食事の頻度や一日の合計食物摂取量にはほとんど影響を与えない。コレシストキニンの投与は必ずしも体重減少を引き起こさないが、その欠乏は肥満を引き起こす。満腹感をもたらす脳腸ペプチドは多く存在するが、現在、食欲を増進する脳腸ペプチドとして唯一知られているのは、グレリンだ。グレリンは胃と近位小腸の粘膜細胞で産生され分泌される。グレリン分泌は絶食によって増強され、食物摂取によって抑制される、という。

もうこれ以上食べられない、お腹いっぱいだ、と思ったとき、胃の内容量を何かが計測したからではなく、コレシストキニンが小腸と脳で産生され、それぞれの場所の受容体が受け取ったからそう感じたということになる。反対に、お腹がすいて仕方がないと思ったときには、グレリンが胃と小腸で産生されたからということであるらしい。どちらもペプチドがそのような感覚を引き起こしている。さて、山口県周防大島町でほぼ三日間行方不明になっていた幼児が山中の沢で発見されたとき、彼は発見者の尾畠春夫さん(78歳)から飴玉を受け取るとむさぼるように口に入れてかみ砕いたらしい。グレリンが働いていたということになるだろう。尾畠さんは、大分県で長年営んでいた魚屋の店をたたんで以降、日頃から一日8キロ走って体を鍛えるとともに、社会に恩返しがしたいと、日本のあちこちで一切の報酬やお礼を受け取らず自前の車と道具と質素な手弁当でボランティアを続けてきた人らしい。今回は、それまで警察と消防が延べ550人体制で捜索しても見つからなかったところに、現地に入って一人で捜索を開始してから、わずか20分程度で幼児を発見してしまったのだから驚きだ。報道されている通りであるとするなら、国民栄誉賞はこういう人にこそ与えてもらいたいと思う。

テーマ : 文明・文化&思想
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知らずに失ってしまったもの

The Journey of the Magi
The Journey of the Magi, Sassetta (Stefano di Giovanni), The Metropolitan Museum of Art

当方の三博士はキリストの降誕を祝いに行くところだ。誰よりも早く知るということが時に重要になる。身体に欠乏している物質を実際に摂取しようとするようになるまでの時間は、短い方から、塩・水、一般食物、カルシウムの順番になる。塩の場合、脳と腎臓においてペプチドが補完的に働く結果、そのような反応が発生するらしい。

アメリカ産科婦人科学会上級研究員マイケル・L・パワー、ワシントン大学産科婦人科学部客員教授ジェイ・シュルキン著「人はなぜ太りやすいのか」(みすず書房)によれば、空腹は動物が食物を摂取する動機となり、渇きは水を飲む動機となる。塩が欠乏すると腎臓のレニン―アンジオテンシン系が刺激され、水と塩を貯留するように働きかける。また、アルドステロンという副腎皮質ホルモンの放出が促される。アルドステロンは血液脳関門を越え、中枢(脳)のアンジオテンシン系を活性化し、それが水と塩の摂取を促す。これは、塩に対する味覚を変える。その結果、塩辛い食べ物や飲み物が欲しくなる。塩に対する欲求は、中枢(脳)と末梢(この場合は腎臓)の協同の例であり、一つのペプチド(この場合アンジオテンシン)が、末梢と中枢で補完的に働くという例でもある。ヒトにおける空腹感は、塩や水の欠乏とカルシウム欠乏の中間くらいの時間単位で起こる。塩や水の欠乏に対するほど急激ではないが、カルシウムほど遅くもない。カルシウム欠乏に対する急性反応は、貯蔵からの動員となる。カルシウム欠乏は慢性になって初めて、摂食行動に変化を及ぼす、という。

ホメオスタシス維持にも、必要な物質の種類によって、働くまでの時間の間隔が別々になっているようだ。間隔の短い方から、塩・水、一般食物、カルシウムだ。喉が渇く、塩辛いものが食べたくなる、空腹になるというのはごく普通の現象だ。かつて、塩は高価な商品として取引されていたし、水や食物が貴重なものだというのは誰でも知っている。しかし、カルシウムが欲しくなるという感じはあまり経験することがない。カルシウムは、煮干し、ヒジキ、チーズ、牛乳、納豆等に多く含まれるが、たまに納豆が食べたくなる時に、カルシウムが不足しているからなのかどうかは定かではない。多分違うだろう。カルシウムが不足すると、骨折や骨粗しょう症を引き起こす。骨に貯蔵されたカルシウムが意識に上らずに使用されているからだ。カルシウムは筋肉の収縮や心臓の拍動を調節する働きも持つらしい。身売り難航が報道される大塚家具も設立から49年経つうちに、何か大切なものを知らずに知らずに失ってしまったのかもしれない。

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大きいという利点

The Dream of the Shepherd
The Dream of the Shepherd, Ferdinand Hodler, The Metropolitan Museum of Art

誰にも迷える瞬間はあるだろうが、科学的事実には迷いの余地はない。小さな体の動物と比べた時の大きな動物の利点は、基礎代謝量が相対的に小さいことだ。大きな動物に小さな動物と同じ体重比(%)の脂肪があった場合、それは小さな動物の場合より多くの日数のエネルギーに相当する。

アメリカ産科婦人科学会上級研究員マイケル・L・パワー、ワシントン大学産科婦人科学部客員教授ジェイ・シュルキン著「人はなぜ太りやすいのか」(みすず書房)によれば、体重が700グラムのゴールデンライオンタマリンと体重70キログラムのヒト、そして体重7000キログラムのゾウを比較すると、ヒトはゴールデンライオンタマリンより重量で100倍重く、ゾウはそのヒトのまた100倍となっている。しかし、基礎代謝量には32倍ずつほどの違いしかない。大きくなることの利点だ。ゴールデンライオンタマリンのような小さなサルは、体重の約10%を脂肪として蓄えることができる。しかし、大抵はそれ以下の量しか蓄えていない。それは、5日分のエネルギー必要量に相当する。ヒトの場合、体重の10%の脂肪量(この量は、かなりやせた人の脂肪量だ)は、1か月分のエネルギーに相当する。ヒトの大きな身体は、多くの食物を必要とするが、一方で多くの貯蔵も可能にしている。それによってヒトは飢饉からの衝撃を和らげることができた。しかし、過剰な食事からの衝撃はその限りではない、という。

大きな体の動物は、小さな体の動物と比べて、より長い日数何も食べずに生き続けることが可能だということになる。それは、食糧の入手が不安定な時代には、種として生き残るために有利に働いたことだろう。ヒトもそのような恩恵を受けた種の一つだ。しかし、多くのエネルギーを蓄えられるという特性は、過剰な食事をすれば過剰な脂肪を蓄積することになり、それはまた肥満と肥満に関わる病気を引き起こす可能性がある。さて、イランの人口は81百万人、北朝鮮の人口は25百万人。米国によるイランへの制裁再開には国際的には合理的根拠がない。そして、米国が両国を制裁をしても、制裁に耐える能力はイランの方が大きいということになるのであれば、イランは簡単には米国の要求に応じることはないだろう。

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ミスマッチ

Spring in the Rice Fields
Spring in the Rice Fields, Katsushika Hokusai, The Metropolitan Museum of Art

日本人の身体を支えてきた穀物はやはりお米ということになるだろう。生物のエネルギーは主として、グリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられるか、または脂肪として脂肪組織に蓄えられる。グリコーゲンは無酸素条件下でも代謝できる利点を持ち、脂肪はその0.11グラムがグリコーゲンの1グラムのエネルギーに相当し軽いという利点を持つ、とされる。

アメリカ産科婦人科学会上級研究員マイケル・L・パワー、ワシントン大学産科婦人科学部客員教授ジェイ・シュルキン著「人はなぜ太りやすいのか」(みすず書房)によれば、エネルギーは、いくつかのかたちで体内に蓄えられる。主要なものには、グルコース[単糖類]の貯蔵型であるグリコーゲン[多糖類]としておもに肝臓や筋肉に蓄えられる方法と、脂肪組織に脂肪として蓄えられる方法がある。脂肪は、エネルギー貯蔵源として重要な利点をもつ。まず、単位重量当たりの代謝可能エネルギーが、炭水化物やタンパク質の二倍であること、また、水をほとんど介することなく貯蔵されることだ。対照的に、1グラムのグリコーゲンの貯蔵には3~5グラムの水が必要となる。1キロカロリーは、グリコーゲンでいえば1グラムに相当するが、脂肪でいえば0.11グラムにしか相当しない。しかし、グリコーゲンには、脂肪にはない少なくとも二つの利点がある。第一は、グリコーゲンは無酸素条件下でも代謝できること。それは強強度の活動下、つまりエネルギー支出が有酸素代謝の能力を超えるときでさえエネルギーを供給できるという利点を有する。第二は、容易にグルコースに転換できる点にある。グルコースは脳、胎盤、そして胎児のエネルギー源として最も好ましい。妊娠中の哺乳類では、グルコース代謝はとくに重要となる、という。

狩猟採集時代のヒトには、久しぶりの獲物を執拗に追うときや、捕食者に追われて全速力で逃げるときが必ずあったから、グリコーゲンによってエネルギーを体内に供給しなければならない場面があっただろう。また、女性の場合は、グリコーゲンから転換されたグルコースを胎児・乳児に供給する場面が必ずあった。一方で、脂肪はグリコーゲンよりはるかに軽いので、エネルギーの貯蔵手段としては多量のエネルギーを貯蔵することを可能にした。食糧の獲得が安定していない時代の男女、及びこれまでのあらゆる時代の女性にとって、それは生き延びるために非常に重要なことであったと思われる。ヒトの身体の仕様はこうした狩猟採集時代のまま変わっていないので、食糧が豊かになり激しい運動の必要がなくなった現代においては、ミスマッチが発生し、肥満の問題が起こっている。日本ボクシング連盟の前会長の場合も、彼自身の固定した価値観の仕様が、変化した社会のそれとの間でミスマッチを起こし問題を発生させていたが、本人はそれに気が付かなかった、ということだろう。

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