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異なる彩色

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Long-tailed Tit on Autumn Ivy, Utagawa Hiroshige, The Metropolitan Museum of Art

進化史上、爬虫類に四足というグランドデザインができていたとしたならば、鳥の羽は、そのうちの二足が変化したものと容易に推測できる。それは容易には変わらないからだ。味覚レセプターと嗅覚レセプターとは、口と鼻だけではなく、消化管内の内分泌細胞上にも存在する。味覚体験や嗅覚体験は生じないが、各種ホルモンの分泌をコントロールしている。また、迷走神経を介して脳と緊密に連絡している、とされる。

UCLA教授エムラン・メイヤー著「腸と脳」(紀伊國屋書店)によれば、味覚に関与する分子やメカニズムのいくつかは、口内のみならず消化管全体に分布していることが、最近の研究からわかっている。マウスの腸内だけでも、28種類のフィトケミカルレセプターが特定されており、人間の腸内にも、植物に含まれる種々の化学物質に反応する、それ以上のレセプターが存在するであろうことは間違いない。消化管の味覚レセプターは、味覚体験とは関係がない。しかし、甘味レセプターがグルコースや人工甘味料を検知すると、血流へのグルコースの吸収、および膵臓のインシュリンの分泌が促進される。苦味レセプターに刺激を加えると、飢餓ホルモンとも呼ばれるグレリンが分泌される。グレリンは脳に送られて食欲を刺激する。また、鼻の嗅覚レセプターと同じものが消化管全体にも分布していることがわかっている。消化管の嗅覚レセプターは、味覚レセプターと同様に、主に内分泌細胞上に存在し、そこで各種ホルモンの分泌をコントロールしている。消化管を構成する細胞や内臓刺激をコード化するレセプターの大多数は、迷走神経を介して脳と緊密に連絡している。また、マイクロバイオータが脳に向けて発するシグナルのほとんどは、この経路を通る。迷走神経は、消化管のみならず他のすべての内臓組織と脳を結んでいる、という。

食事の初めにビールを飲むと、アルコールで次第に心がほぐれてきて、食欲が進むということはあるだろう。しかし、それだけではなかった。ビールの中の苦み成分が消化管の内分泌細胞上の苦みレセプターを刺激して、飢餓ホルモンであるグレリンを分泌させてもいたらしい。味覚レセプター、嗅覚リセプターは、口や鼻では味や匂いをとらえてその情報を脳に伝える一方、消化管ではその役割をせずに、入ってきた食物の内容に応じて、各種のホルモンを分泌することに関与しているらしい。進化史上で一つのグランドデザインが出来上がると、それ自体を変えることは極めて困難だ。口や鼻と、消化管とでは、どちらかを退化させることもなく、同じグランドデザインの上に少し異なる彩色をすることになったようだ。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

似たような問題

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Bouquet in a Chinese Vase, Odilon Redon, The Metropolitan Museum of Art

「愛しています」、「お疲れさまでした」、「素晴らしい演奏でした」、等々さまざまであったとしても、ヒトがヒトに花束を贈る場合、その理由は当事者の間では自明だ。特定されている。各々の情動操作プログラムには、それぞれ特定のシグナル分子が用いられる。ストレスの場合には、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出因子が分泌される。それが副腎を活性化し、副腎はコルチゾールを送り出し始める。血中のコルチゾールレベルが上昇して、代謝活動の増大に準備が整えられる。

UCLA教授エムラン・メイヤー著「腸と脳」(紀伊國屋書店)によれば、各々の情動操作プログラムは、特定のシグナル分子を用いる。そのシグナル分子には、鎮痛剤としても作用し快活さをもたらすエンドルフィン、欲求や動機に働きかけるドーパミン、信頼や魅惑の感覚を刺激するオキシトシンなどのホルモンが含まれる。また、ストレスのマスタースイッチとして機能する副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)もそれに含まれる。ストレスを受けると、視床下部が最初に反応する。CRFの分泌は、媒介となる化学物質を通じて副腎の活性化をもたらし、活性化された副腎はコルチゾールを送り出し始める。そのため血中のコルチゾールレベルが上昇し、予想される代謝活動の増大に向けて準備が整えられる。視床下部が分泌したCRFは偏桃体にも拡散し、ストレスのマスタースイッチとして機能する。偏桃体の活動は、身体では動悸、手の平の発汗、消化管からすべての内容物を除去しようとする動きとして現れる、という。

哺乳類の祖先が捕食者を突然見かけた時には、一瞬のうちに緊張感が高まり、全力で逃げるか闘うかできるように代謝活動増大の準備が整えられたはずだ。そこで、そういう相手に魅惑されてもいけないし、この状況をいいつまでも再現したいと思ってもいけない。鎮痛作用を感じるにはまだ早すぎる。進化史的には、無数の試行錯誤を経て、それぞれの情動に特定のシグナル伝達分子が用いられ、それがたちまち働いて、脳内あるいは身体内に特定の変化を促し、変化した周りの環境に対して個体が意識を働かせずともおおよそ相応しい対応をとれるように出来上がったのだろう。つまり、情動はおおよそ正しい方向性を示している。しかし、それは常に正しいとは限らないということでもある。現在、世界各国で見られるポピュリズムも、強い情動に基づいているという点で、似たような問題を抱えている可能性がある。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

結果としての選択

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Blossoming Cherry Trees, Sakai Hōitsu, The Metropolitan Museum of Art

春になって桜が咲き始めるとヒトの心はなぜか軽やかになる。それは、胃腸にも良い効果をもたらすはずだ。脳で生じるいかなる情動も、脳から消化器系に送られるシグナルによって、胃腸の活動に反映されることになるからだ。

UCLA教授エムラン・メイヤー著「腸と脳」(紀伊國屋書店)によれば、あなたが怒り心頭に発しているとき、脳は消化器系に特徴的なパターンでシグナルを送り、消化器系はそれに対して強い反応を示す。あなたの胃は激しく収縮し、胃酸の分泌は増大する。同時に、腸はねじれ、粘液や他の消化液を分泌する。不安なときや動揺しているときにも、パターンは異なるが類似の胃腸の反応が生じる。胃の活動は低下し、腸の活動は活発化する。意気消沈すると、[胃]腸はほとんど動かなくなる。脳で生じるいかなる情動も、胃腸の活動に反映されることが現在では知られている。アメリカ人のほぼ15パーセントは、IBS(過敏性腸症候群)、慢性の便秘、消化不良など、胃腸に何らかの異常を抱えている、という。

胃腸に何らかの異常があったとして、胃腸に効く薬を飲んでも、原因自体を解消することにはならない場合があるということだ。もし、情動に原因があるのであれば、そのような情動の発生を抑える対策の方をとらなければ意味がない。怒り、不安、悲しみ等の強い情動が発生しないようにすることの方が大事になる。米国はストレスの多い社会だ。貧富の差が極端に拡大し、様々な価値観がぶつかり合っている。しかも、実際に何か利害の対立が発生すれば、とりあえず相手を殴っておいて、それから必要に応じて話し合いに入りましょうというスタイルがよく見られる。そういう社会ではネガティブな情動が頻繁に発生し、それが消化器系に異常を引き起こすことになりやすい。豊かな社会を築いてきたが、消化器系の異常は甘受せざるを得ないという道を結果として選択してしまったように見える。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

アンテナを高く

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Boats off the Coast, Storm Approaching, John Sell Cotman, The Metropolitan Museum of Art

嵐が近づけば、風は強まり波は荒くなって、船の航行に影響が出る。腸内の特殊な細胞(腸クロム親和性細胞)は、体内の95パーセントのセロトニンを貯蔵し、私たちが食べたもの、腸内微生物が生成する化学物質、脳からのシグナルによって影響を受けている。また、情動中枢に向けてシグナルを送り返す感覚神経と緊密に結びついている。腸内微生物の構成の変化は、パーキンソン病やうつ病の発症・進行と関係している可能性がある、とされる。

UCLA教授エムラン・メイヤー著「腸と脳」(紀伊國屋書店)によれば、アメリカでは現在、少なくとも50万人がパーキンソン病を抱え、毎年およそ5万人が新たにその診断を下されている。最近の研究では、パーキンソン病に典型的にみられる症状が発現するはるか以前から、患者の腸管神経系にパーキンソン病特有の神経変異が生じていること、およびこの疾病には腸内微生物の構成の変化がともなうことが報告されている。マイクロバイオータは、アメリカにおける生活障害の第二の主要因たるうつ病にも関連する。うつ病の治療によく用いられる医薬品は、セロトニン・シグナルシステムの活動を促進する。体内のセロトニンの95パーセントは、腸内の特殊な細胞に含有される。この特殊な細胞は、私たちが何を食べたかによって、また、ある種の腸内微生物が生成する化学物質によって、さらには情動状態を伝達する脳からのシグナルを受け取ることによって、影響を受ける。この特殊な細胞は、脳の情動中枢に向けて直接シグナルを送り返す感覚神経と緊密に結びついており、脳腸相関の重要な構成要素をなす。腸内微生物や、それが生成する代謝物質は、うつ病の進行、あるいはその重さや持続の度合いに強い影響を及ぼす可能性がある、という。

過去50年ほどのヒトの腸内微生物の構成の変化は、ASD,自己免疫疾患、代謝異常ばかりではなく、パーキンソン病やうつ病にも関係している可能性がある、とされる。植物性食物中心でそれに脂肪の少ないわずかな肉がつくという食事スタイルから、動物性脂肪と糖分の多い食物への転換は、一方では豊かな食事をもたらしたが、同時に想定外の問題を引き連れてきた可能性がある。マクロ的に見れば、ファーストフード店での食事や高級レストランでの動物性脂肪の多い食事は、長く人類を悩ましてきた栄養不足という問題を解消したが、進化史的には初めての食事内容を多くのヒトが摂取することになり、腸内微生物の構成を変化させかつ多様性を減少させて、それが別の問題を引き起こしている可能性があるということだ。しかし、個人的レベルでは、長期的に、食事内容が変わってきていることも、腸内微生物の構成が変わってきていることも、気づくことは困難だ。科学者にはそれらの事実を発信する責任がある。ところが、可能性はあっても未だ証明されていないことを発信すると、関係する企業等から訴訟されるリスクがあるので、実際には発信されないことが多い。一般個人としては、アンテナを高くしておくしかない。

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意外な原因

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Autumn Harvest Festival, Ike Taiga, The Metropolitan Museum of Art

直接接していなくても、森の健全さと海の豊かさとは川の流れを通じて関係している。脳と腸も同様だ。しかし、脳と腸だけが互いに影響を及ぼし合っているのではない。腸内微生物も関係している。腸内微生物は、脳から腸へのシグナルに聞き入ることができ、腸が脳に送り返すシグナルに影響を与えることができる。腸内微生物の構成の変化は、自己免疫疾患、代謝異常、自閉症スペクトラム障害の増加と関係している可能性がある、とされる。

UCLA教授エムラン・メイヤー著「腸と脳」(紀伊國屋書店)によれば、腸内微生物は、腸の免疫細胞や、内臓刺激をコード化する無数の感覚受容体と密接に関連し合っている。微生物は、脳から送られてくる満足、不安、怒りなどの情報を表すシグナルに聞き入ることができる。さらに、微生物は、腸が脳に送り返すシグナルを生んで、情動に影響を及ぼせる絶好の位置を占める。かくして、脳内に起源をもつ情動は、腸、および微生物が生成するシグナルに影響を及ぼし、そして、このシグナルは脳に送り返され、そこで情動を強めたり、ときには長引かせたりする。自閉症スペクトラム障害(ASD)は、1966年の時点では1万人の子供に4.5人の割合でしか見られなかったが、2014年のデータではアメリカの子供の2.2パーセントが、一度はASDと診断されている。ASDが広まると同時に、自己免疫疾患や代謝異常など、マイクロバイオータ(腸内微生物)の異変に由来する他の疾患を抱える患者も増えつつある。このような疾患が新たに流行するようになった経緯の類似性は、過去50年間におけるヒトマイクロバイオータの異変に関して共通の基盤があることを示唆する、という。

脳と腸には一見すると関係がなさそうだし、脳と腸内微生物とはもっと関係がなさそうだ。しかし、脳、腸、腸内微生物は互いにシグナルを交わして影響し合っている。脳や腸が変わるには進化史的な長い時間がかかる。ところが、腸内微生物の構成は季節の変化に合わせて変わるくらいに短期間に変化することが可能だ。もし、この50年間に食生活が大きく変化し、腸内微生物の構成が変化したならば、腸内微生物の出すシグナルも変化し、それが自己免疫疾患、代謝異常、ASD等の発症を増加させている可能性は十分あるだろう。そして実際に、日本の戦前の一般的食生活と現在の食生活とを比べれば、動物性脂肪の増加、植物性食物の減少、植物性食物に含まれるミネラル分の減少という明らかな傾向が見られる、と言えるだろう。

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